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昼前に辰馬と一緒に学校に行って。

前夜祭


今日は前夜祭。いよいよ今夜から大学祭が始まる。

俺や銀時が手伝うことになった近藤や土方達の剣道部は、前夜祭では模擬店を出さないらしくて、とりあえず今日は女装から逃れた状態だ。

辰馬は委員長だから、学校に着くなり前夜祭の準備に追われていて、俺は仕方なく委員会の部室で漫画を読んでいたり、剣道場で近藤と話したり。とにかく暇を潰すのが大変だった。1人で電車に乗れるなら、暗くなってからゆっくり来ればいい話だったんだけど。

「部長、土方君に連絡つきません」
剣道部員の1人が、さっきからずっと携帯にかけているらしいのだけれど。

「参ったなァ…。トシの奴、どうしたんだ?」
前夜祭会場の第1グラウンドに場所が空いてるらしく、ちょっとだけでも模擬店を出そうかどうしようか、そんな状態になっているらしい。もしも模擬店を出すことになっても、今日は俺は手伝わなくていいと、明日から頼むと近藤に言われていた。

「近藤、沖田に、かけたか?」
あの土方が、何の連絡もなしに学校をサボるなんて。それも、ただの授業の日みたいに自分1人の問題じゃない、剣道部の部員みんなに迷惑がかかるとわかっていて連絡がつかないなんて。よっぽど身内に急に何かあったか、もしくは沖田と何かあったか。俺にはそうとしか考えられなかった。

「総悟が、どうかしたのか?」
だけど近藤は全然わかってないみたいだ。仕方ないよな、近藤ってば、酔っ払って、あのこと全く覚えてないらしいからな。

銀時と小太郎のバイト先のニューハーフの店に、4人で飲みに行って。俺以外全員酔ってたから、そのまま2人ずつに別れてラブホに泊まった。
俺と辰馬がラブホで何しようと当たり前だけど、近藤と土方も、ヤルことヤっちゃってたみたいだったから。辰馬が煽ったせいかどうかわからないけど、12時のチェックアウトの時、土方は俺と一緒でフラフラで。肩で支えてもらわなきゃ歩けないくらいぐったりしていて。
だけど、酒が抜けていなかった近藤は、土方と『してしまった』ことはおろか、銀時のバイト先からどうやって帰ったかすら、あんまり覚えてないらしい。

近藤が覚えてないんだから、土方も黙ってればいいのに、きっとアイツのことだから正直に沖田に言っちゃったんだろう。『浮気しました』なんて。俺は黙ってろよって忠告したんだけど。

自分は俺としょっちゅうヤってたくせに、土方に浮気されたとわかった時の沖田は…。イヤ、きっと俺でも怖い。自分は浮気するくせに、なんて、俺はあいつらのこと言えないけど。辰馬の馬鹿も、筋金入りの浮気性だから。

「仕方ない、とにかく、トシには連絡つき次第理由を聞くとして」

とりあえずみんなで第1グラウンドまで荷物を運ぶことになった。炭火のコンロとか、炭とか商品となるフランクフルトとか、俺は手伝わなくてもいいって言われたから、剣道場に残って慌ただしく動き始めたみんなを眺めていた。

携帯が鳴って、ようやく学校に着いたらしい銀時がどこにいるのかと尋ねてくる。委員会の辰馬や小太郎は忙しくて電話に出るどころじゃないだろうからな。

「今は剣道場」
『えーっ?銀さん今日は何にもしなくていいって聞いたんだけど?』
「俺も何にもしてねェよ。手伝わなくていいって。暇潰してるだけ」
『あっそ。それなら行くわ』

1人になった剣道場で銀時を待って、まだ早いだろうけど俺達も第1グラウンドに移動することにした。
ようやく、太陽が西の空に沈み始めていて。これが、完全に暗くなったら、前夜祭が始まるはずだった。

「そだ、高杉、コレ見たか?」
銀時が差し出したのは、今回の大学祭のパンフレット。昼前に学校に着いた時は、まだ配布されていなかったものだ。

「まだもらってねェ」
「委員長のご挨拶が載ってるぜ」

最初のページを開いて渡してくれた銀時が示したのは、学長、実行委員長と共に最初のページに挨拶文と顔写真が載ってる、辰馬だった。学長と実行委員長が、生真面目に正面を向いた、証明写真みたいに写ってるってのに、辰馬だけはサングラスをかけて、部室で撮った写メみたいな写真で。

「辰馬らしくねェ?この写真」
書いてある文章が、写真とは違ってマトモだっただけに、俺も銀時につられて笑ってしまった。

全部が全部、ガチガチの真面目にやればいいわけではないと、学祭なんだから楽しまないとと、辰馬が思ってることが伝わってくるみたいだった。

「やっぱ馬鹿はやることが違うな」
そんな馬鹿が好きなんだけど、と心の中で呟きながら、第1グラウンドまでの小道を銀時とのんびり歩く。前夜祭に参加する学生達が、慌ただしく追い越して行ったり、走って戻って行ったりだけど、俺達は気楽なもんだ。

だけど、気楽に歩いていられたのは、そこまでだった。

「ぎん…っ!」
俺は、第1グラウンドの方から歩いて戻ってくる3人組を視界にとらえ、銀時の腕を掴んで立ち止まった。いや、歩けなくなってしまったという方が正しい。

「どしたァ?高杉」
「無、理…」
「えっ?」

俺の視線の先の3人組に、銀時も気付く。ラグビー部か柔道部かレスリング部か。とにかくそんなところの、身体がデカくてゴツイ3人組。その3人が、全然悪くないことなんて、最初からわかってる。

「大丈夫だって!俺がいるだろ?」
銀時は、俺を背中に庇うみたいな位置で立ってくれて。

「あっち見るな。ホラ、パンフでも見てろって」
銀時が、さっきの最初の辰馬が載ってるページを差し出してくれる。
俺は左手でパンフレットを、右手で銀時の腕をぎゅっと握っていた。

こんなところで立ち止まって、何やってんだ?と、怪訝そうに3人組がこっちを見てる。痛い、怖い、視線を感じる、助けて。

運動部のクラブハウスなんかには、全く縁がない俺は、大丈夫なものだと思い込んで、最近安心していた。そうだよな、学祭なんだから、全学生が集まるようなモンなんだから、ああいう人達とだって交流があるかもしれない。普段は近くにいない身体のデカイ男。俺のトラウマ。

俺達を不審そうな目で見ながらも、3人は何も言わずに通り過ぎていった。

「もう大丈夫だろ?高杉」
銀時が振り返って俺の腕を取った瞬間、一気に力が抜けた。

「おいっ!!高杉っ!しっかりしろってェ!!」
銀時の叫び声は、ほとんど聞こえなかった。

***

第2グラウンドから打ち上げる花火の準備は、問題なく進んでいるという。こちらの第1グラウンドのキャンプファイヤーも、あとは点火を待つばかりとなった。

執行委員会のテントの中で、坂本は、陸奥の手によって作られた挨拶の原稿に目を通していた。
もっとくだけた感じで、面白おかしい挨拶を考えていたのに、それは見事に却下された。

「こんな挨拶、誰も聞きたくないじゃろ〜?」
1人ぼやいてみるが、その呟きを聞く者はいない。

(晋助は、そろそろこっちに着くじゃろうか)
銀時が来るから、一緒に第1グラウンドに向かうと、剣道部は結局今日も模擬店を出すらしいと、でも手伝わなくていいらしいと。晋助からは何通もメールが入っていたが、ほとんど返信できていない。銀時が来るのなら、ましてや近藤達が一緒なら大丈夫だろうと安心して、自分は準備に専念していたのだ。

「坂本っ!!」
テントの中に、桂が駆け込んでくるまでは。

「どうしたんじゃあ〜?」
「銀時からだ!晋助が倒れたらしい」
「!!」

桂の差し出した携帯を奪って電話口に出ながら確認すると、自分の携帯にも、銀時からの着信が入っていた。マナーモードにしていて、全然気付かなかった。

「銀時、今どこじゃ?」
『第1グラウンドに向かってる途中なんだけどォ、ちょっと辰馬、コイツ担いでそっち連れてっていいの?それとも動かさない方がいい?』

いきなり倒れたものの、地面に頭を打つことだけは回避したと銀時が叫んでいる。

「銀時、今からそっち行くぜよ!」
「おい、坂本!」
慌てる桂に携帯を返して。

「10分で戻るぜよ」
校舎の方へ向かって、小道を走り出した。

***

倒れた高杉を担いだ坂本が、執行委員会のテントに戻ってきたのは15分後だった。桂から話を聞き、険しい表情でそれを見ていた陸奥だったが、坂本が救護班のテントの中に高杉を運んだ後はすぐに仕事に戻って来たため何も言わなかった。

すでに学長の挨拶が始まっている。本来、坂本がやるはずだった司会進行役は、桂が代わっていた。

「すまんの、陸奥」
「次はおんしの挨拶じゃ」
時間までに間に合わなかったら、ぶっ飛ばそうと思っていたと、陸奥は本気で言った。

「で。高杉は大丈夫なんか?」
執行委員会の隣のテントに設けられた救護テントの中に、銀時が付き添っている。今回の学祭、初の怪我人病人だ。

「精神的なモンじゃき、銀時が付いとるから大丈夫じゃろ」
そうは言いながらも、しきりに隣のテントを気にする坂本。本当は自分が付いててあげたいのは当たり前だ。

「ほれ、坂本出番じゃ」
学長が、ステージの上から降りてくる。

「陸奥ぅ、これ終わったら、晋に付き添って構わんかの?」
桂は、急だったにも関わらず、自分の代役を無難にこなしているようだったし。

「好きにせぃ。今日だけじゃ」
ジロリと坂本を睨み付けたものの。暫く考えて、陸奥はそう、決断を下した。

「恩にきるぜよ!」
パッと明るい表情になった坂本が、ステージへと駆けて行った。

(早まったかもしれんのう)

***

今日は皆様のおかげで、こうして大学祭を無事に迎えることができまして…云々。陸奥が用意した原稿通りの挨拶をしていた坂本が、ステージ上で、突然大きく息を吸った。

「とりあえず、あんまりハメ外さん程度に楽しんだらエエっちゅうことじゃ!」

以上!と、話を切り上げステージから降りてきてしまう坂本。この突然の言葉に、一瞬呆気に取られた会場は一気に笑いに包まれた。

(やりおったわ…)
苦い表情を見せていたのは陸奥1人。

「すまんのォ、やっぱわし、堅っ苦しいのは苦手ぜよ」
あっはっはーと笑いながら、陸奥に怒鳴られる前にと、坂本は救護テントの中へ逃げた。
堅苦しいのが苦手というよりは、さっさと終わらせて高杉のところへ行きたかったなんて見え見えで。

(ま、盛り上がっちょるし、いいかの)
後で坂本に反省文でも書かせればいい話だ、たぶん。

グラウンドの中央に設置されたキャンプファイヤーに火が灯り、スピーカーから流れる音楽に合わせて学生達が歌って踊って、飲み食いしている。花火の打ち上げまでは、あと30分程。

***

『もう、大丈夫じゃよ、晋助』
辰馬の声が聞こえた。

『わしが、守っちゃる言うたろー』
辰馬、どこだ?怖い、嫌だ。早く助けて!

「晋、しっかりしィ」
耳元に聞こえた声で、うっすら開いた視界に、最初に映ったのはやっぱり辰馬だった。

「たつ、ま…」
額の上に乗せられた冷たいタオルと、自分の右手を包み込むように両手で握っている辰馬と。それから、辰馬の隣の銀時。

「もー、辰馬の声で起きるなんて、晋ちゃんどんだけー?」
「ウルセェ!」
誰が晋ちゃんだ!誰が!

「晋、起きれるかの?大丈夫がか?」
額の上のタオルを救護班に返しながら、辰馬に支えられてようやく俺は急ごしらえのベッドから降りて立ち上がった。

「あ、あの。ありがとうございました」
頭を下げたら、救護班のみんなは、全然大丈夫、気にしない、と言ってくれて。

「晋も銀時も。もうすぐ花火じゃよ」
辰馬は銀時を促し、俺の手を引っ張って、隣の執行委員会のテントに顔を出す。

「ヅラァ!お前の名司会ぶり!聞いてたよォ!」
早速、銀時は小太郎に絡みに行って、俺は辰馬に腕を引かれたまま、グラウンドの中央に歩み出た。

「た、辰馬っ!ちょっと!」
こんなに学生がたくさんいる場所で、手なんか繋ぐのって、恥ずかしいんだけどっ!

俺が恥ずかしがっていることに、気付いたのか気付かなかったのか、それともわざとなのか。辰馬はしっかりと5本の指を絡めて手を繋ぎ直した。

「夏に花火大会、行けなかったじゃろ?」

周りの目が気になって、俯いていた俺に、辰馬の言葉が降ってきた。

「じゃから、前夜祭くらいは、こうやって、晋と2人で花火見たかったんじゃア」

辰馬の言葉に重なるように、ドーンという大きな音と、光りのショーが始まった。花火が打ち上がるたびに、学生達から歓声が上がる。

(馬っ鹿じゃねェの)
花火大会なんて、あんなヒトゴミの中は嫌だと言ったのは俺だ。行けなかったんじゃない、俺が嫌がって行かなかったんだ。だけど。

(辰馬は、本当は行きたかったんだな)
こうやって、2人で手を繋いで。

2人で見る花火は、今までに見てきたどれよりも、特別に綺麗だった。
来年の夏は、一緒に花火大会に、行ってやってもいいかなァ、なんて。柄にもなく、そう思っちまった。

200発(らしい)の花火が終わって、俺達は2人で模擬店を回って腹ごしらえをすることにした。
幾松のラーメン屋の隣で、近藤達がフランクフルトを焼いている。

「坂本ォ!お前ら3本くらいずつ買って行けェ!」
「そんなにいらんぜよォ」
「坂本君、すぐできるわよ〜?」

近藤に、場所が空いてると知らせたのは幾松だったらしい。

「しょうがないのぅ、友達価格にせんかい」
結局、幾松のラーメンも、剣道部のフランクフルトも2人分ずつ買ってあげてしまう辰馬。ラーメンができるまでにフランクフルトは食べ終われるだろう。

「晋…。なんか、エロい」
俺の食べる姿を、じぃーっと見ていたと思ったら、いきなり辰馬が赤くなったままそんなことを呟いた。

「テメェっ!!ナニ連想してやがんだコノヤロー!!」
そんなもの、連想するお前の方がよっぽどエロいだろうが!!俺は力いっぱい辰馬の頭を殴りつけてやった。

「ハイハイ、相変わらず仲いいわねェ!ラーメンお待たせ」
さっさとフランクフルトを食べ終えて、俺は幾松からラーメンを受け取る。すぐに復活した辰馬も。さすがに11月、ちょっと寒いこの時期にラーメンは有り難い。味も、いつも料理してくれてる幾松だけあって、かなりイケてる。

「幾松さん、これ美味しいよ」
学祭の3日間で、かなりの売り上げを出すんじゃないかなぁって、本気で思った。

「そりゃそうよ〜!この1週間、味の研究したんだから!」
桂君に食べさせて、と幾松は笑う。小太郎が実験台ですか?じゃあ、アイツ1週間ラーメン食べ続けたのか?

「ちょっとォ!高杉君、こっちにはそんな感想ないのォ?」
近藤が喚いているけれど。

「フランクフルトなんて、焼くだけだろーが」
マズかったらそれこそビックリだ。

「そうじゃ、近藤。おんし車じゃろ?晋を送ってやってくれんかのぅ?」
ラーメンをすすりながら、辰馬が思い出したように言った。

「なんで?」
「わしコレ、全部片付けてからじゃないと帰れんのじゃ。だいぶ遅くなるからのぅ」

全ての模擬店が片付いて、キャンプファイヤーの消火を確認して。学内を見回ってからでなければ辰馬は帰れないらしい。近藤は、学祭の道具を運び入れる為に、期間中の車の乗り入れの許可を取っているそうだ。俺が1人じゃ電車に乗れないことは、もちろん近藤も知っている。

「じゃあ、お前ん家泊めてもらおうかな?正直、いくら車でも俺ん家遠いんだよな」
「全然構わんぜよ〜」
俺にとっても、電車に乗らなくてすむなら、有り難い話だった。

「さて、そろそろ」
お腹も膨れたし、陸奥に怒られる前にと、辰馬は執行委員会のテントに戻って行った。俺はそのまま、近藤のところに残って、片付けを手伝って。

何故だか途中で大量の酒を買い込んで、マンションに帰った。銀時や小太郎も、辰馬と一緒に帰ってきて。

結局、最後はいつも通りの飲み会で大騒ぎ。

「なんかもう、打ち上げって雰囲気なんですけどォ」
「俺が知るか!あいつらは3回目でも」
まだまだ学祭は始まったばかり。


続く



連絡が取れない土方君の運命やいかに?(笑)






















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