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晩御飯をおごってやるから、という辰馬の電話で、東城は喜んで原宿まで出てきた。

パー子とヅラ子


山手線を原宿で降りて俺達は東城を待った。小太郎と銀時は、そのまま先に新宿へ向かったけれど。東城が来るまでの時間、土方は電話で、コトの顛末を沖田に必死で説明していた。途中で近藤が電話を変わって、どうやら沖田も、近藤の話ならすんなり聞いて納得したらしい。

ご飯の前に買い物だと、相変わらず空腹の東城を促して、俺と土方の学祭衣装を選ぶ。悔しいけれど、俺はたいていどの服もすんなり入るのに、土方に合うサイズの服はなかなか見つからなかった。

どれもこれも「無理でした」とか「袖や丈が短すぎて変」なんて着ないで更衣室から出てくる土方に対して俺は、ファッションショー状態だった。

「晋…ほんに、カワエエのう…」
「やっぱり似合い過ぎですっ!」

どれを着ても何をやっても、辰馬と東城が絶賛するもんだから、なんだかイイ気分にはなってきたんだけど。なんか俺、洗脳されてねェか?

とりあえず、なんとか土方でも着れるサイズのワンピース(みたいなやつ)と、俺の衣装はなぜか2着買われて、支払いを済ませた近藤が領収書を書いてもらっている。

「東城、何食べるろ〜?」
「ご飯おかわり自由の定食屋!」

俺と土方は、それぞれの衣装が入った紙袋を持って溜息を漏らすだけだってのに、辰馬も東城も元気だよな。だいたい、辰馬が出してくれんのに定食屋かよ。でも、東城がそういうヤツだって、わかってるから、辰馬もちょくちょく飯なんか食わせてやってるんだろうな。

「ほんなんでえいがかァ?」
「腹いっぱい卵かけご飯が食いたいんだっ」

そんな東城たっての希望で、結局俺達5人で定食屋に入った。東城のヤツ、ホントに3日分くらい食い貯めするつもりかよ。

食が細い俺は、さっさと食べ終わって、土方と店の出入口前で煙草を吸うことにした。最近多いんだよな、全席禁煙の店。大通りを往来する人たちを、ぼんやり見つめながら、深く吸い込んだ煙を吐き出す。

「あ、あのリーマンいける」
背はそこそこなんだけど肩幅が広くて、がっちりした体型のヒゲのサラリーマンのことを、目で追いながら土方が言った。土方のタイプは近藤みたいなガテン系。今の人はスーツだったけど、作業服で頭にタオルでも巻いたら、似合いそうなタイプ。

「俺はその後ろの後ろがイイ」
「お前ってわかりやすいよなァ。坂本っての、スゲェ納得」

俺はもちょっとキレイ系が好きだ。できればおっきい人が好きだし、できれば短髪じゃない方がいいし。

辰馬とあんまり身長変わらないし、ちゃんと選べばスーツが似合わないわけじゃないから、近藤が無理ってことはないんだけど。まぁ、基本服装に無頓着な近藤だから、そんな服着てるのなんて、辰馬と歩いてる時にモデルにスカウトされたとかで、面白半分で半年だけバイトしてたって時の辰馬と写ってる雑誌の写真でしか見たことないし、近藤はノンケだから何とも思ったことはないんだけど。

「お前がわかんねェんだよ!アレがイケんなら、なんで沖田なんだよ?」
「総悟は…特別だっ!」

沖田なんて、どっからどう見てもジャニ系じゃん?…俺もだって、だからイイんだって、辰馬は言うんだけど。
まー、ゲイの男2人でボーっと煙草ふかしてる時の会話なんてこんなもんだ。どーしようもねェ。

「土方、これから銀時んトコ行くけど、大丈夫なのか?」
前に辰馬や沖田と4人で飲みに行った時、ホントに薄い水割り1杯で土方は潰れていたんだけど。

「飲まねェから大丈夫だろ」
「でも、なんかイベントらしいぜ?」
2人で3本目をふかしていたら、俺達の分の荷物も持って3人が店から出てきた。

東城はニューハーフには興味ないし、課題があるからとあっさり帰っていって。俺達4人は、また山手線に乗って、今度は新宿を目指した。俺達は店の場所を知らないから、黙って辰馬の後をついてゆく。

なんだろう、新宿に着いてから辰馬がおかしいくらい無口だった。
とあるビルの前で足を止めた辰馬は真剣な表情で、俺の顔を見た。

「晋、お願いがあるんじゃけど」
ここのビルの3階が銀時のバイト先だと辰馬は話した。そして、ここから先の自分は、普段とは全く違う自分だから、何をしても怒らないでほしいと。

「そんな、俺が怒るようなコトするワケ?」
「そうなんじゃ…。晋に、殺されても文句言えんぜよ」
「お前なァっ!」

なんだそりゃ?お前一体、何やってんだ?もちろん、辰馬が銀時の店に来るのなんて、初めてじゃないわけで。

「じゃけど、店の中では絶対に怒らんといてほしいんじゃ。出てから、なんぼでも、殴ってえいからの」
辰馬にそこまで言われたら、納得するしかなかった。だいたい、銀時のバイト先に行ってみたいと、言い出したのは俺だ。

「…わかったよ」
俺が頷いたのを確認してからようやく、辰馬はエレベーターのボタンを押した。

***

「いらっしゃいませ〜」
イベントだと銀時が言っていただけあって、入口前は花で埋め尽くされていた。4周年、らしい。

「キャー!辰ちゃん!来てくれたのォ!?」
一番最初に扉を開けて、入って行った辰馬に女の人(でいいのか?)が早速抱き着いてボックス席まで引っ張って行く。

「アンタ達、ホントに来たの?」
唖然と立ち尽くす俺達に気付いて来てくれたのは綺麗に化粧して、着物に身を包んだ銀時だった。

「ママ!辰ちゃん4名様よっ!」
「じゃあ、隣座ってもらってちょうだい」
薄暗い店内に回るミラーボールと派手な照明。そしてアップテンポの音楽と嬌声でうるさいくらいだ。

銀時、いやパー子に促されて、俺達は辰馬の隣に座ったけれど、早速ママに抱き着かれたまま飲んでいる辰馬と俺達は『混んでたから相席になった別の客』状態だった。

「辰馬のボトルあるからそれでいい?」
グラスの中に氷を入れながらパー子が聞いてくるけど、こういう場所の初心者3人に聞かれたってわかるわけがない。

「俺はお茶だけでいいから」
「あ、土方君弱いんだったよね」
言いながら酒を作る手は休まないパー子。

「高杉ぃ、お前こっち座んな。あっちは見るんじゃねェよ」

パー子に言われるがまま、俺と辰馬の間に近藤と土方が入る。俺も、さっき辰馬が真剣な表情で言った意味がわかってきて、なるべく見ないようにはしてるつもりなんだけど。それでも、どうしても気になってしまっていた。

「坂本は、いつもああなのか?」
俺達3人分と自分の飲み物を用意したパー子の掛け声で乾杯した後、近藤が尋ねた。

「ここに来た時はねェ。ママが辰馬に惚れてるのよォ」
ああ、そういえば、沖田がそんなようなこと言ってたっけ。でもまさか、あんな風に膝に乗せて、キスまでしてるとは思わなかった。

「辰馬がここ来るのはたまにだけど、ママはけっこう、辰馬んトコ行ってるみたいなんだよね」
だから怒らないでやれよ高杉とパー子に言われて、俺はウルセェと返した。店の中では怒るなって、それは辰馬との約束だから、絶対しない。とりあえず今は我慢なんだ。

「パー子ォ!辰ちゃんからモエ入りまァす!」
「ありがとうございまァす!」
すぐ隣に小さいグラスとシャンパンが運ばれて来て。

「みんなも飲むぜよ〜!乾杯じゃあ!」
スタッフはもちろん、酒が飲めない土方も、一応グラスを持って乾杯した。シャンパンはあっという間になくなってしまう。

「大丈夫か、晋助」
他の席にパー子が呼ばれて、すぐ変わりについてくれたのは、紫色の着物が似合う長髪のスタッフだった…と思ったら、この声小太郎じゃねェか!!

「お前…もはやそれは才能だな」
完全に女だと思った。いや、ニューハーフの店なんだから、みんなニューハーフなんだろうけど、小太郎は普通の男じゃん?そりゃスカウトもされるはずだ。

「お前、ソレは誉めてるのか…?あ、俺ももらうぞ」
言いながら自分の酒を作り始める小太郎、いやヅラ子。乾杯とグラスを合わせて飲み始める。

「黙ってたらわからんなぁ!」
「喋れば声でバレるけどなァ」
近藤と土方も、やっぱり驚いている。

「いやぁ、桂がこんなに綺麗だとは!」
「いやーん、本名はやめて下さいよぉ近藤くぅん!今はヅラ子よォ」
オカマ言葉も仕種もハマり過ぎている。小太郎って、こういうヤツだったんだ。お前、ほんとにノンケか?

「辰ちゃんからボトルいただきましたァ!」
すぐ隣から、また大きなママの声がして。

「ついでにドンペリも1本いただいちゃいまァす」
「ありがとうございまァす」

オイオイ、そんなに飲んで大丈夫かよ辰馬のやつ。こういうところのボトルっていくらするんだよ?しかも辰馬のボトル、こっちにある焼酎じゃなくて、ブランデー飲んでんじゃん?気になって辰馬の方を見たら、氷を入れておくアイスペールに、今入れたブランデーと人数分のグラスに注いで残ったドンペリを流し込まれていた。

「晋助…。いくら坂本でも、アレは潰れるぞ、たぶん」
小太郎に言われなくたってわかる。ブランデーとドンペリをブレンドした酒を、辰馬はそのまま両手で持って一気に飲み始めたのだから。

「辰ちゃん好き好き〜」
「わしも〜、愛しとるぜよ〜」
隣から聞こえてくる声が、どうしても耳に入ってしまう。

「晋助、ドンペリの感想は?」
「は?…マジィ。同じ炭酸ならビールの方がイイ」

なんでこんなモノが1本何万もするんだろうかと、本気で思ったけどそれは好き好きだし。今の俺の場合、精神的なモノが大きくて、余計に酒が美味しいと思えないのかもしれない。

「近藤さん、ちょっとだけ、飲んでみてもいいか?」
土方が乾杯だけして口をつけずにいたドンペリに興味を示している。

「大丈夫だァ、おぶって帰ってやるぞォ」
わははと大声で笑う近藤も、もう酔ってるに決まっていた。

俺は、チラっと隣を見るたびに、イチャつく辰馬とママの姿が気になって今日はきっと、どれだけ飲んでも酔えないかもしれない。

コップ1杯のビールで酔っ払うらしい土方が、シャンパンなんか飲んだらどうなるかなんて火を見るより明らかで。

「あんまり美味しくない」
と一言感想を言ってすぐ、土方は近藤に寄り掛かって眠ってしまった。

「おー、土方君も酔うちょるの〜?わしも回って来たぜよ〜」
「えーっ?辰ちゃん、もう帰っちゃうの〜?」

抱き着かれてせがまれていた辰馬だけど、どうやら頭はハッキリしているみたいで。しきりに謝って会計を求めている。ボックス席のほとんど全部が埋まる程お客は入っていたから、渋々ながらも、ママは辰馬とこっちの俺達の分の会計を済ませた。辰馬の財布から、少なくとも1万円札が5、6枚出て行ったような気がした。

眠ってしまった土方を、宣言通り近藤がおぶって、俺と辰馬でさっきの紙袋と鞄を持って。

「ほんじゃアの、ママ、また来るの」
「辰ちゃん、絶対よォ!」
見送りに出たのは、ママとパー子とヅラ子。

「高杉!コレ持って行けよ」
エレベーターを待つ間に、またキスしてるママと辰馬に隠れてパー子がこっそり、小さく畳んだビニール袋と胃薬を渡してくれた。

「下降りたらすぐ使うことになると思うわよ」
ワケがわからないでいたらパー子にそう言われて。

「わかった」
とりあえず俺は袋と胃薬を受け取った。

「晋助、駄目だと思ったら、すぐ電話してこいよ」
ヅラ子にそう囁かれて。やっぱり小太郎は小太郎だ。俺が、精神的にかなり参っていることに気付いてくれていたみたいだ。

「じゃあ、またの〜」
たぶん店の中にいたのは、せいぜい1時間くらい。だけど、俺にとっては、異様に長く感じられた。

エレベーターが閉まるその瞬間まで、辰馬はへらへら笑っていたんだけど。
エレベーターの扉が閉まって、下降し始めた瞬間、辰馬の顔から笑みが消えた。

「晋助、ごめんの」
いきなり後ろからぎゅうっと抱きしめられて。

「酒臭ェ」
「うん、吐く」
「…はァ?」
1階に着いて、エレベーターから出た瞬間、辰馬は口許を抑えてしゃがみ込んだ。

(オイオイ、マジかよ?)
そこでようやく、俺はパー子のくれたビニール袋の意味がわかった。

「ホラ、辰馬。コレに出せって」
なんとか辰馬をビルとビルの間の細い路地に引っ張って袋を渡す。辰馬は、袋の中に、盛大にリバースしていた。

「こんな坂本初めてだなァ!」
土方をおぶったままの近藤も驚いている。俺だって初めてだ。

「近藤、ちょっとここにいて辰馬見てて。俺、水かお茶買ってくる」
本当は辰馬についててあげたかったけど、土方を背負っている近藤に『水買ってきて』とは言えなかったから。

コンビニはすぐに見つかって、俺はミネラルウォーターを2本買って戻った。土方を背負ったまま、しゃがんで辰馬の背中を撫でてくれている近藤。辰馬の袋の中は戻したモノでいっぱいで、今手に入れたコンビニの袋と換えてやる。ミネラルウォーターを渡してやると、一気に半分くらい飲んで、その勢いで、辰馬はまたリバースした。

(お前、なんでこんなになるまで飲むんだよ…)
液体でいっぱいになった袋の口を固く結んで、ビルのゴミ捨て場らしいところに捨てた。

「ごめんの〜、晋〜」
とりあえず、どこかで休ませないと。4人のうち、酔ってないのは俺だけだ。でも、はっきり言って俺はこの街には詳しくない。

「辰馬、どこ行ったらいいんだよ?」
「ぁあ…。あの、カラオケ屋の路地左じゃ」
「近藤、ついて来いよ!」

辰馬は後ろから俺に抱き着くみたいに体重を預けていて。なんとか歩いてくれているうちに、どっかに辿り着かないと。

「そこのホテル、男同士でも入れるろ〜」
テメェなんでそんなに詳しいんだ!とは思ったけど、今はおかげで休めるんだから仕方ないって、なんとか怒りを飲み込んだ。

「近藤と土方、一緒でいいよな?」
「俺は構わんぞォ!何にもしないし」
いい加減辰馬が限界だと思った俺は、とりあえず一番フロントから近そうな201の部屋を選ぶ。近藤はその近くでと、205。
4人でぎゅうぎゅうのエレベーターに乗って2階へ上がって、近藤達とはそこで別れた。

「辰馬、ほら、着いた」
かなり古いホテルだとは思ったけど。201は和室だった。初めて見た、こんなラブホ。

「晋、すまん、寝る」
靴を脱いで、真っ直ぐベッドに向かった辰馬は、そのままバタンと倒れて眠ってしまった。

***

掛け布団の上に、ジャケットも脱がずに倒れて眠ってしまった辰馬の姿を俺は茫然と見つめていた。店を出た後で殴っていいと言われた意味が嫌と言う程わかって、なんだか胸のあたりがムカムカする。きっとあのママのつけていたモノだろう香水の匂いが辰馬にも移っていて、早くシャワーを浴びてほしかった。

あれだけ飲まされて潰れていながらも、譫言みたいに『晋、ごめん』と繰り返していた辰馬。だから、あそこで言っていたことやなんかは、全部本心ではないんだろうけれど。

(ほかのヤツとキスしてた)
(ほかのヤツに好きだって言ってた)

ベッドの端の方で膝を抱えたまま、なんでか涙が止まらなかった。
しばらくそうやって泣いていたら、携帯が鳴った。小太郎だった。ちょうど、お客さんが一気に引いて、少しだけ手が空いたらしい。

『大丈夫か、晋助』
「…うん」
『大丈夫じゃない声だな』
『辰馬さ、半分仕事してたみたいなモンだから、怒んねェでやれよォ』

電話の向こうの声が銀時に代わる。怒るも何も、潰れて寝てるんだけど、辰馬。

『とりあえず、仕事戻るから切るな。なんかあったらかけてこいよ』
小太郎からの通話が切れた。俺は、携帯を枕元に置いて、香水臭い辰馬の頬にかかった髪の毛をそっと上げてみる。顔や身体に触ったって、全然起きる気配がなかった。

なんとか無理矢理ジャケットを脱がせてハンガーに掛けた後、辰馬の下の掛け布団を引っ張って身体の上に掛けてやった。

(そういえば、辰馬とホテル来んの初めてじゃん)
付き合い始める前から一緒に住んでいたんだから、する時はいつも家だったし。

なのに、なんでお前、こんな潰れてんだよ。
「馬鹿辰馬」
ポツンと呟いた声は辰馬には届かない。

ああ、どうしよう。もう、とっくに3時過ぎてるっていうのに、今日は全然眠くならない。

俺は、とりあえずゆっくりシャワーに入って、冷蔵庫を開けてビールを飲んだ。瓶ビール2本と缶チューハイ2本空けても足りなくて、フロントに電話してビールを5本持ってきてもらった。

たぶん、これ全部空けたって、今日は酔えないんだとは思うけど。
何気なくテレビをつけたら、エロビデオばっかり流れてるチャンネルになっていて。
女の裸がアップで映ってもなぁ…。もう俺、女に興味ねェし。でも、こんな深夜に、他のチャンネルでは別に何にもやってなくて。意味もなくダラダラそれを流して眺めていた。

(あ、眠くなってきた…)

酒のせいなのか、それともAVの(女体の)せいなのかはわからないけれど。眠くなった俺は、ベッドに潜り込んで、香水臭い辰馬には背中を向けて眠った。

嫌な予感はどうしても消えなくて、部屋の明かりとテレビは、つけっぱなしにしたままで。


続く






















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