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今年は暖冬だと、しきりにニュースは伝えていたが、さすがに肌寒さを感じるようになってきた11月の頭。

セーラー服とメイドさん


いつものように、昼休みは4人でテラスに集まって昼食をとっていた。

「ねー、お願いってぇヅラァ」
「俺は忙しいんだ」

銀時が、隣に座った小太郎に頼み込んでいるのは今夜のバイト。銀時が『パー子』として働いているニューハーフの店で、今夜はイベントがあるらしい。笑いながらその様子を見ている辰馬に言わせると、絶対嫌だと言いながら、結局いつも小太郎はノリノリの女装でバイトに行ってあげるのだと言う。ママにも、いっそレギュラーにならないかと、誘われる程完璧に、女になるらしい。

「辰馬、俺、小太郎の女装見てみたい」
「ほうか?じゃあ、…ちょっと待っての」
小声で、こっそり呟いた俺に返事しようとした辰馬の携帯が鳴った。

「なんじゃー?…15号館のテラスじゃけどー」
電話は短くて、どうやら誰か、今からここへ来るらしい。

「近藤じゃった。…えぇと、なんじゃったかの?」
「だから、銀時の店行ってみたいって」
「おお、そうじゃったのー」

俺達が2人でそんなことを話している前で、銀時は小太郎に抱き着くみたいにして、まだバイトのお願いをしている。

「ヅラ子様お願い!もうお前のシフト組まれてんだからさァ」
「そうだと思った。…で、何時からだ?」
「サンキューヅラぁ〜!」
小太郎って、案外押しに弱いのかもしれないな、なんて思ってた時だった。

「坂本ォ!」
電話があった近藤がテラスに走り込んで来た。かなり猛ダッシュで走ってきたらしく、あの体育会系の近藤の息が荒い。

「どーしたんじゃ、近藤」
なにごとかと4人全員が近藤に注目した時。

「学祭の売り子手伝ってくれェ!」
近藤の口から飛び出したのはそんな言葉だった。

「へェ、学祭って、もうそんな時期なんだァ」
一番最初に口を開いたのは、俺と同じことを思った銀時。

「残念じゃけど、わしは委員会の仕事があるで、よその売り子なんかしてる暇ないぜよ?」
「それはわかってるんだよ!お前と桂は委員会だろ?だからさ」
近藤の視線は、明らかに俺と銀時を捉らえていて。

「なるほど。確か剣道部は、毎年売り子が女装していたな」
「えっ?」

ただの売り子するくらいなら、辰馬の友達だし手伝ってやってもいいかな、なんて思ったけど。

「俺はぜった…」
「あらァ、アタシ達高いわよ〜、近藤さん」

嫌だと言いかけた俺の言葉は、頬に手を当てて女の仕種に女言葉の銀時に遮られた。アタシ『達』ってなんだよアタシ『達』って!!俺は絶対嫌だ!

「もちろんタダとは言わないさ!1人ビール1ケースで手を打たないか?」
近藤は身を乗り出して、銀時に詰め寄った。

「乗った!!もちろん高杉も!」
「ありがとうっ!!」
「オイっ!!」
テーブルを叩いて、俺は立ち上がった。

「俺は絶ッ対ェやらねェからなっ、女装なんかっ!」
俺の怒鳴り声に近藤がちょっとビビってる。

「なによ〜、いいじゃん女装くらいさァ?」
「テメェと一緒にすんなパー子がァ!」
俺が怒鳴ったって、全然余裕の表情の銀時が憎らしい。

「やったこともないヤツにグダグダ言われたくありませェ〜ん」
「んだとコラァ!!」

何かにつけ、俺と銀時がいがみ合うのはいつものことだから、辰馬も小太郎も、全然気になんかしてないんだけど、近藤だけは違っていて。

「お、オイ!坂本ォ!止めてくれよォ」
今にも殴り合いに発展しそうな位、お互いの顔を突き合わせて睨み合う俺と銀時。

男の子なんじゃから少しくらい暴れェなんて言いながら、呑気に高杉と銀時を見ていた坂本は、近藤に揺さ振られて仕方なく口を挟んだ。

「わしも、晋助の女装見たいのぅ」
「!?……なっ」

睨み合いをやめて振り返ると、満面の笑みで自分を見つめる辰馬と目が合って。

「お前、ソレ、本気かよ?」
動揺してしまった俺は、睨み合っていたことはおろか銀時の存在なんてすっかり忘れて、辰馬の隣の椅子に戻る。



その、いきなりの態度の変わり様に、驚いたのは近藤だけだった。

「晋なら絶対、誰よりもカワイイと思うぜよ」
微笑まれたまま頬を触られて。

「……辰馬が、どうしてもって言うんだったら、してもイイケド」
自分が女装なんてする姿を想像して、恥ずかしくて俯いてしまって。小声にしかならなかった。

「ありがとう!ありがとう銀時君、高杉君!」
相変わらずデカイ声の近藤がばんばん背中を叩いてきて。

「じゃあ早速!今、剣道場で衣装合わせしてるんだ!」
「え?今?」
もうちょっと心の準備ってモノがあるんじゃないのか?

「行ってみるか」

自分がやるわけでもないのに、なぜかノリノリで立ち上がったのは小太郎。お前、委員会の仕事の合間にやるつもりじゃないだろうなァ?どんだけ女装好きなんだよ!

「ほれ、早くせんと昼休み終わってまうぜよ〜」
辰馬に腕を引かれて、俺も強制的に剣道場へ連れて行かれた。

***

剣道場では、メイド服を着せられた土方が、半泣き状態で部員達に囲まれていて。

「お、俺、やっぱりコレ嫌なんですけどッ」
「カワイイっ!」
「男だとわかってても、襲いたくなってきたァ!」
「お帰りなさいませ、ご主人様って言ってくれェ!」
「や、やめて下さい、先輩ッ!」

体育会系部活の1年生の立場は弱い。壁際に追い詰められて囲まれても、自分からは手は出せない。

「何やってんだァ?お前らァ?」
「!!」
「部長!」

近藤の声で、慌てて散り散りになる部員達。俺は全然知らなかったんだけど、近藤は部長らしい。

「うっわ、土方君カワイイーっ!」
あっけらかんとした明るい声で感想を言ったのは銀時だった。

「見るんじゃねェっ!!」
真っ赤な顔で俯く土方だけど、確かにカワイイと俺でも思ってしまった。

「サイズの問題とかあるからなァ!衣装だけはたくさんあるから、とりあえず着てみてくれェ」
近藤が俺達の前に置いた段ボール箱の中には、きちんとクリーニングに出されたコスプレ衣装がぎゅうぎゅうに詰まっている。

「うおっ!銀さんナース!絶対ナース着るぅ」
いち早く衣装を選んだ銀時は、その場で着ていた服を脱ぎ捨てて着々とピンク色のナース服を身にまとってゆく。

「俺も着ていいか?」
近藤の返事を待つより早く、脱ぎ出した小太郎もチャイナドレスを選んでいて。

「高杉君も、ホラ!セーラー服なんてどうかな?」
近藤に衣装を持たされたのはいいんだけど。

「あ、あの…」
ここで着替えなきゃ駄目なんですか?更衣室とかないんですかっ?

「高杉、こっちだ」
たぶん、この中で唯一俺の気持ちをわかってくれている土方が手招きしている。よかった、更衣室あるんじゃん。

「覗くなよっ!」
俺はそれだけ言い捨てて、仕方なく更衣室の中に入った。

「坂本、なんで?」
男しかいないんだからイイじゃん?と言う顔で近藤は更衣室の入口とその前に立つ土方を見つめていた。

「近藤さん気にしないであげてェん。あの子はしょーがないのよぉん」
エロナース完成!なんて言いながらとりなしたのは銀時だった。

「そういうモノじゃと、思ってあげてくれんかの?」
「男ばかりだから、逆に恥ずかしいんだろうな、たぶん」

座り込んで衣装を見ている坂本と、チャイナドレスを着こなした桂。

「いやーん、なんかヅラ、似合いすぎて面白くないー!」
そういうものかと、無理矢理納得する近藤を置き去りに、銀時と桂はテンションが上がってきていた。

「いっそチアガールとかの方がイイんじゃないのよ、ヅラ子!」
「アタシそんなミニスカート履けないわよっ、パー子!」
「じゃあ、スッチーなんかどうかしらっ?」

ハイテンションで言い合う銀時と桂の2人に、剣道部員達はかなり引いている状態だが、2人共全く気にしていない。
桂がチャイナドレスを脱いでスチュワーデス(フライトアテンダント)の制服に着替え始めた時。

「あのー…」
更衣室から、ようやく顔を覗かせたのは高杉だった。

「おっ、高杉似合ってんじゃねェか」
更衣室の前にいた土方が一番最初に声を上げて。

「晋、こっちおいで」
「あきらめろ、俺だってメイドだぜ?」
土方に腕を引かれて、ようやく高杉は更衣室から出てきた。

「晋、カワイイ!」
口許を抑えて絶句した坂本筆頭に、全員が高杉に注目した。

「あ、あのっ、俺っ」
本人の動揺をよそに、やたらと盛り上がり始める剣道場内。

「近藤!このセーラー服売ってくれ!このままお持ち帰りじゃアっ!」
「コラ!離せ!馬鹿辰馬!」
ひょいと俺を抱き抱えた辰馬が馬鹿なコトを言い出して。

「いや、ソレ、俺のじゃないからさ」
「高杉ィ、お前、なんで女に生まれて来なかったのさァ」
「ウルセェ銀時黙れっ!」
「坂本、お持ち帰りも何も、一緒に住んでるだろうが、お前ら」
「あはーん、ヅラ子いいこと言ったァ」
「アテンションプリーズ」
「お前らっ!なんでそんなノリノリなんだよっ!」

売り子なんて、銀時と小太郎の2人で十分なんじゃないだろうか。あ、小太郎は委員会の仕事があるんだった。

「部長!」
剣道部員達が近藤の近くに集まってきて。

「この人達に任せたら、もう俺達女装しなくていいんじゃないですか?」
「俺達がやっても、汚いだけだし」
「あ、でも部長はやりたいんですよね?」
「土方君も絶対メイドでお願いします!」
おいおい、部員より手伝いの方が多いって、どうなんだよソレ?

ようやく辰馬が降ろしてくれて、俺は周りの部員達を見回した。確かに、剣道部だけあって、ゴツイ男達ばっかりだけど。でも、学祭の女装なんて、きれいさを競うモノでもなんでもないハズだ。近藤はやる気みたいだし。

「まァ、確かに、これだけいれば足りるかな?よし、お前らは全員調理に回す!」
だけど、近藤の決断は早かった。

「まァ、委員長がここにいる以上、問題はないと思うんだが、一応3人共ココに名前書いといてくれるか?」
近藤が差し出したのは、大学祭模擬店の登録申請書。俺達は3人共、剣道部員として名前と学籍番号を記入させられた。

「コレ、もう、脱いでイイ?」
いつまでもセーラー服でいるのが嫌で、俺は近藤に訴えたんだけど。

「せっかくだから他のも着てみたらどうだ?高杉、OLなんかどうだ?」
「おっ、秘書とかソソルよねェ!」
「小太郎…、銀時…」

俺は呆れて、怒る気にもなれなかった。なに、小太郎ってこんなヤツだったの?そんなに女装好きなの?それともコスプレが好きなのかよ?

「そうじゃ晋。せっかく女装するなら、ゴスロリしてみんか?」
(!!)
辰馬の提案で、当然俺達は、みんな同じ1人の人間を思い出していた。

「東城が泣いて喜ぶな」
「さすがにゴスロリ衣装はないからなァ…。東城連れて、買いに行くかァ?」
おいおい、衣装がないなら駄目だって言えよ近藤ッ!!

「えーっ、土方君のメイドと被らないー?」
そうだそうだ、似たようなのが2人もいるよりは。もうセーラー服でいいっつぅの!

「じや、初日セーラー服で2日目がゴスロリでどうじゃろか?」
「辰馬っ!」
なんだよ、学祭で女装すんのって、たった1日だけの話じゃないのかよ?何日やればいいんだよ馬鹿野郎!

「買いに行くなら、衣装代は剣道部から出すぞォ!」
「じゃ、早速東城に連絡して、今日にでも渋谷行くかのう?」
近藤、今日は大丈夫がか?なんて、すっかり2人で話がまとまりつつあって。

「小太郎…」
「諦めろ。学祭だけだ、お祭りだと思って開き直るんだな」
お前はいいよなお前は!女装好きなんだもんな!!

そうこうしている間に、授業の後の待ち合わせ時間と場所が決まって、なぜか土方も連れて行かれることになった。2日目は、俺と土方のゴスロリ姉妹をやるらしい。東城を誘って、渋谷で買い物した後は銀時の店のイベントにみんなで飲みに行こうかって、そこまで決まってしまったら、もう俺は何も言えなかった。

更衣室で衣装を脱ぎながら、俺と土方の口からは、溜息しか出てこなかった。


続く



なんたってネタがありすぎるので、この学祭シリーズ、暫く続きます






















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