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高く青い空の向こうに見つけた太陽 19


久しぶりに登校した学校は、なんだか懐かしい気がした。久しぶりなのに、思い切り遅刻してしまい、とりあえず屋上に向かったけど、誰もいない。万斉も来島も、マトモに授業に出てるのだろうか。

昨日は、日本に帰ってきた親父と母親と3人で夕食を食べながら、かなり飲まされた。

うちの親父も母親も、俺の喫煙や飲酒は全然気にしてなくて、ちょっと変わってると思う。
中学くらいから、たまに帰ってきた親父の晩酌には付き合わされてたし、母親も、夜遊びしてたって、警察のお世話にならなきゃいいってスタイルだし。
世間の親よりは、相当自由にさせてくれていると思う。俺が、警察のお世話になるようなコトには全く興味がない(だいたいバレるようなことをする程俺は馬鹿じゃない)って、わかってるからできるのだろう。

屋上でボケーっと煙草をふかしていたら携帯が鳴って、辰馬からのメールが届いた。

『まだ起きとらんがか〜?今日から学校復帰じゃろ?』
こんな時間にメール送れるってことは、空き時間なんだろうか。

「遅刻したから屋上」
一行だけのメールを返すと、しばらくして、辰馬が屋上の扉から顔を出した。

「久しぶりなのに遅刻とは晋助らしいのぅ」
「うるせー」

俺の隣に座った辰馬は、誰もいないのをいいことに堂々と唇を重ねてくる。学校だとわかっていてキスする辰馬も辰馬なら、抵抗しようともしない俺も俺だ。

「晋…、お酒臭いぜよ?」
「まじで?昨日かなり飲まされたからな」

結局、2時か3時くらいまでは飲んでいたんじゃなかろうか。親父も母親も、それでも朝から仕事に行った。起こしてくれたみたいだけど、俺は全然、いつも以上に起きれなくて。親父と母さんの、あの体力はどこから来るのだろうか。こればっかりは本当、素直に両親に頭が下がる。

「両親帰って来たんじゃなかったんがか?」
「あァ、だから親父に付き合わされて」
俺の返事に辰馬は驚いたみたいだった。まー、教師なら当然の反応かもしれない。

「ほんに、晋のうちは変わっとるの」
「まー、そうかもなァ。でも、その方が子どもはグレないぜ」
「十分グレとるじゃろうが」
「うるせー」

顔を背けたら、辰馬が頭を撫でてくれた。

他愛のない、こんな会話が楽しくて、幸せだなんて。顔は反対を向けたまま、俺は辰馬の肩にもたれ掛かった。辰馬の身体はデカくて、あったかくて、そうやっているだけで、すごく安心する。

「晋、二日酔いにはなってないがか?」
「俺は若ェから大丈夫だよ」
二日酔いになんて、未だかつてなったことがない。どれだけ飲もうともだ。

「じゃあ、今夜飲みに行こうかの?退院の報告に、本城殿も心配してくれとったから」
「あァ、そうか。俺助けてくれたのって、神山町のホストだったっけ?」

俺が病院に運ばれた詳しいいきさつは辰馬に教えてもらった。なんで、すぐに辰馬に連絡がいったのかも。名刺を捨てられずにいたことが、そんなところからバレて、正直恥ずかしかったのだけれども。

「そうじゃよ、昨夜電話したんじゃ」
わざわざ見舞いに来ることはなかったものの、辰馬と狂死郎は時々連絡を取っていたらしい。俺の退院を相当喜んでくれていたとのことだ。

「ついでに西郷殿のとこも行って、見せ付けてやらんといかんしの」
「は?見せ付けるって、何がだよ?」

マドマーゼル西郷。夜のあの街では有名な人で、俺はあの街に行くようになった最初の頃から知っている。客と一緒に飲みに行ったことも何回もあるし、ちょっとだけバイトしてた店をすぐ辞めた時に、俺が未成年だとわかっていながら、次を紹介しようかという程心配してくれたのもあのママだ。

「100万積まれても、キスしないらしいの、スギ君は」
「なっ…!テメェ、知ってたのかよっ!」
あのオカマ、余計なことしゃべりやがって!

「転生郷とかいう麻薬が蔓延しとってのー、心配しとったらしいんじゃ。その矢先に晋が刺されて、かなり噂になっとったらしいぜよ。どうやら刺されたのはスギ君らしいって」

そういえば最近あの子の姿見ないわね、とか、スギ君やっぱり高校生だったのね、とかナントカ。その噂を耳にしたのは偶然だったけれども。

「お前なぁっ!なんで今頃そんな話するんだよっ?」
「じゃって、晋には関係ないじゃろ?被害者なんじゃし。あの事件があって、ようやく警察も動き出して、こないだ一斉検挙じゃよ?」

ニュースにもなってたはずじゃと辰馬は笑う。いくら入院中で暇だって言っても、面会時間ギリギリまで、いつも辰馬と一緒にいた俺は、ニュースなんて全く見てなかった。やたら詳しくなっちまったのは、芸能関係のニュースばっかりだ。お昼のワイドショーのせいで。

「そんな話はどうでもいいんじゃよ」
言って、話を変えた辰馬は、また唇を重ねてきた。さっきの、触れるだけのキスとは違って、深い舌まで入れた官能的なキス。身体の力が抜けて、全部、なにもかも任せてしまいたくなる。

「学校だぜ、馬鹿辰馬」
つい、首に、腕まで回しておきながら、唇が離れた瞬間に俺の口から出るのはそんな言葉。

「何と言われても、もうわしは痛くも痒くもないぜよ〜」
噂を耳にした時、すぐに西郷のところを訪れた。どれくらい広まっているのか知りたかった。

西郷に、その噂は事実で、自分は毎日見舞いに行っていると話したら、『やっぱりアンタスギ君狙いなんじゃないの?』と呆れられ、次いで『あの子はプライド高いから難しいわよ』と諭された。

だからその話を聞いたのは、本当に偶然だった。

『狙ってないとかそういうのの前に担任じゃし』と言葉を濁したら、『あの子、100万積まれても絶対キスしないわよ』と。実際に100万出した男がいた話をしてくれたのだ。身体は売っても心までは売らないという意思なんだろうと、西郷は何も知らずに話し続けて。

『西郷殿、わし自惚れていいかの?』
『はァ?何言ってんのよ坂本っちゃん』
『毎日、しとるんじゃけど、…キス』

あの時の西郷殿の驚いた顔はずっと忘れられないだろう。それが、嘘でも誇張でもないことを物語っていたのだから。

「晋が、そんなにわしのこと想ってくれとったとはの」
何か文句を言いたげな晋助の唇を塞いでやった。晋助が病院に運ばれたあの日、『泣くな』と、『泣かれたら困る』と重ねられた唇は、すでに答だったのだ。あの時『まだ好きかどうかわかんねェ』なんて言っていたくせに。

「晋、愛しとるよ」
「…馬鹿」
素直に好きとは言ってくれなくても、自分にだけ許された、このキスだけで十分だと思った。

「はァ〜い、そこっ!学校でイチャこかないのっ!」
お互いしか見えていない2人の世界に、突然割り込んできたのは銀八の声だった。

「もうすぐ休み時間なんですけどォ、いつまでそうやってるつもりですかァ?」
教科書を抱えているところを見ると、銀八は授業を早めに切り上げて来たのだろう。

「うっせェんだよ、見んな、腐れ天パ!」
慌てて離れながら、銀八に言い放つ高杉。

「ちょっと、なんなのその言い方!坂本先生は生徒に手ェ出してますって、教育委員会に言い付けちゃうからねっ!」
扉にもたれ掛かったまま銀八は言い返す。

「んじゃ〜わしは、坂田先生は煙草吸いながら授業やってますって、言い付けようかのぅ」
証拠写真もあるからの〜と笑いながら銀八に言い返す辰馬。

「ちょっと!そんな写真いつ撮ったのよ!もー、辰馬最低!銀さんの肖像権を何だと思ってんの!」
本当に、辰馬の携帯には、授業中の銀八の写メがあったから驚いた。

「高杉も、こんな腹黒のどこが良くてそんな関係になっちゃったワケ?」
辰馬いわく、唯一最初から俺達の関係を知っているという銀八が、真剣な顔で俺を向いて尋ねた。

「腹黒は否定するが、わしも聞きたいところじゃの〜」
なァ、晋?と、辰馬にまで顔を覗き込まれて、俺は引くに引けなくなった。なんでだ、なんで、いつの間に矛先が俺に向いてるんだ?

「しーん?」
辰馬に微笑みかけられて顔が赤くなるのがわかる。好きなモンは好きなんだから仕方ねェだろうが。

「だってさ…」
すげェ期待されてる。教師2人前にしてなんだか負けたくないと思った。何に負けるのか、よくわからないけれど。

「辰馬って、太陽みたいじゃん」
言うなれば、誰も信じられず真っ暗だった俺の世界に差し込んできた唯一の光。辰馬は俺を導いてくれる光。辰馬に出会ってから、確実に、俺の中で何かが変わっていっている。

「なんですかソレ?」
「うるせー」
呆れる銀八に悪態をついて俺は立ち上がった。

「晋」
後から立ち上がった辰馬が俺を呼ぶ。耳元に顔を近づけて辰馬は小声で囁いた。

「わしが太陽なら、晋はこの、青空じゃ」
「…馬っ鹿じゃねェの」

ついつい言ってやったけど、それもいいかもしれないと思った。どうせもう、お互いになくてはならない存在に、なっちまってるのだから。

『だから学校でいちゃつくなって!』とわめく銀八に追い立てられながら、俺達は、休み時間に入った校舎の中へと、降りていった。


END



これにて完結ですっ!晋ちゃんに「辰馬って太陽みたい」と言わせたかったのでした






















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