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起きろなんて言われたって、起きれるわけないじゃないか。

高く青い空の向こうに見つけた太陽 16


「高杉君、まだ食べてないの?」
「…るせェ」
ベッドの上に座っているのはわかる。目の前に食事が用意されていることも。そして、たぶん、今出されているコレは、昼食。朝食の記憶はない。

「夜中、どこ行ってたの」
「…知らない」
「本当に…あなたの寝起きは何とかならないのかしらね」
看護士は呆れて行ってしまった。この飯、片付けてくれてもいいんだけどなァ…。
起きてすぐなんて、食えるわけないだろ?

2食抜くのは許してもらえないのか、いつまでも置かれているから、仕方なく俺はおかずをひとつつまんで口に放りこんだ。

バリっ…
なんだコレ?味しねェぞ?やたら固いし。

「晋助様ァ〜っ!!」
なんか、うるさいのが近づいて来た。

「し、晋助様、何食べてるッスかぁっ!!」
「…知らね」
うるさい奴に、口からはみ出していた固いモノを引っ張り出された。

「高杉、まだ寝とるようじゃのぅ、それはふりかけじゃよ〜、あっはっは」
なんなんだ?なんだって今日はこんなにうるさいんだ?俺はまだ眠いんだから放っといてくれないか?

「高杉、河上と来島も来たんじゃよ。早よ目ぇ覚ましぃ」
ふわっと、デカイ手が頭の上に乗せられて、そのままくしゃっと撫でられた。

(ああ、コレは知ってる)
「辰馬ァ。…眠ィ」

担任を、下の名前で呼んだ同級生に、驚いたのは万斉とまた子だった。しかも、あの高杉だ。

「先生。…いつからそういう仲なのでござるか?」
「坂本、お前、どういうことッスか?」

なんじゃこの2人、晋助の親衛隊か何かか?と、思ってしまった程の2人の態度に、坂本は一瞬怯んだ。

「何にもないぜよ、そういう仲も何もないんじゃけど」
だから、つい、そう応えてしまった。

「ふーん」
また子は、瞳を閉じて甘えたような表情の高杉と、あきらかに頬の引き攣った坂本を交互に睨み付けている。

「まぁ、いいッス」
坂本を押し退けて、高杉の肩を揺さぶるまた子。

「晋助様、早く起きるッス〜」
「うっせェなァ…眠ィんだよォ」
また子も万斉も、高杉の寝起きには慣れているようで、全然平気で話しかけていた。

「…来島?」
「晋助様っ」
ようやく、高杉の目が覚めてきたようで、自分のベッドの周りの3人を、順番に見て行く。

「万斉。…お前ら、見舞いに来んの遅ェんじゃねェの?」
「だってー!坂本に話しかけるのが嫌だったんスぅ」
ベッドの脇で、また子がぶーぶー言った。

「晋助の病院やなんかは、学校では公表されてないんでござるよ」
高杉と万斉は、お互いの拳と拳を軽く合わせて、久しぶりの再会を祝った。

「事情が事情じゃからの、見舞いに行く気のある奴にしか教えんことになっとるんじゃ」
万斉の言葉に補足するのは坂本。

病院はもちろんだが、学校にも警察が来た。しかし、高杉から覚醒剤が検出されるようなことがなかったため、それっきりだった。

『クスリ』と聞いて面白半分にナンパについて行った女子高生。ラリってる男達を見て、恐くなって逃げようとしたら、男の1人がナイフを持って暴れ出した。あくまでも、高杉はそこに通りかかっただけだということで、話は決着した。

「2人共、あんな仲良かったのに、全然聞きに来んから、どうしようかと思ったぜよ」
「それだけお前と話したくなかったってことッス!」

1週間以上会わない間に、すっかり高杉と坂本の関係が変わっていることを敏感に感じ取ったまた子は、ますます坂本を目の敵にし始めたようだ。

「とにかく元気そうで何よりでござるよ」
「点滴ついてっけどなァ」
言いながら、すっかり冷めてしまった昼食を箸で突く高杉。

「お前ら食ったの?」
「いや、まだッスよ」
「終業式の後、真っ直ぐ来たでござる」

1学期最後のホームルームの後。意を決したように坂本を呼び止めた万斉とまた子の2人が、高杉の見舞いに行きたいと言った時、ちょうど向かうところだったからそのまま車に乗せて連れて来たのだった。

高杉は、おかずだけを適当に口に運び半分くらいになったところでトレーを持ってベッドから立ち上がった。

「じゃ、下のサ店でも行こうぜ。坂本の奢りで」
「え?わしの?」
あれだけ毛嫌いしておきながら、こういう時だけは手放しで喜ぶまた子と万斉。

「いいだろ?」
点滴で片手が塞がる高杉の代わりにトレーを運んでやる。高杉は隣に立った坂本を見上げて微笑んだ。

「晋は、ずるいぜよ」
河上と来島には聞こえないように、小声で言ってやった。
そんな上目づかいでおねだりされたら、嫌だなんて言えるわけがない。

高杉の昼食を下げ、4人で1階待ち合いロビー横の喫茶店に入った。少しとは言え、食べていた高杉はコーヒーだけ。あとの3人はランチをもりもり食べた。

サラダについていたミニトマトを万斉の口に放り込むまた子と、デザートについていた甘いシロップのかかったヨーグルトをまた子に押し付ける万斉。食べている時までも、この2人は喧しい。

そんな2人の悪友の様子を、煙を吐き出す高杉はにこにこしながら見つめていた。

以前、いつだったか、屋上でサボっていた時。高杉はふと、尋ねてみたことがある。今と同じように、煙草をふかしながら。

「お前ら、いつから付き合ってんの?」
「何言ってるッスか!!」
「拙者は認めた覚えはないでござる!」
ほとんど同時に、そんな答が返ってきた。

「万斉なんかより、晋助様が好きッス!!」
「拙者だって、晋助の方がいいでござる!」
真っ赤になったまま、そんな言い合いを始めたもんだから、聞いた自分が悪かったと思ったものだった。

担任の前で堂々と煙草を吸う教え子に対して、坂本が何も言わないから、万斉とまた子の警戒心はだいぶ薄れたようで、学校の文句やら噂話やらを始め、しばらく登校できていない高杉に話して聞かせている。

結局、喫茶店には2時間以上は居座ったであろうか。

「晋助、今度は何か、差し入れ持ってくるでござるよ」
支払いを坂本に任せ、先に喫茶店を出たところで万斉が言った。

「じゃあセッター」
高杉は即答した。

「煙草でいいでござるか?」
煙草くらい、病院内でも売っている。しかも、自販機だから、高杉が高校生だから売ってくれないということもない。

「ただし、ボックスな。ソフトしかねェんだよ、ココ」
万斉は納得した。喫煙者には喫煙者のこだわりがある。

「じゃあ、晋助様、また来るッス!坂本に負けないくらい来るッス!」
支払いを終えて喫茶店から出て来た坂本をちょっぴり睨み付けるようにまた子が言った。

「そりゃ無理だぜ、コイツ、毎日来てんもん」
「え?」

なァ?と坂本を見上げた高杉の表情のやわらかさに、万斉とまた子はしばらく動けなかった。いきなり話を振られた坂本は、何のことだかわからない。

「じゃあ、晋助、また来るでござる」
また子を伴って、万斉は病院を後にした。

「…万斉、晋助様変わったッスね」
溜息をつきながら、先に口を開いたのはまた子だった。

「坂本の粘り勝ちでござるなァ」
入学してからこれまで、ほとんど笑わなかった高杉が、あんなにニコニコしている姿に衝撃を覚えた。それはそれで、喜ばしいことなのだけれど。一番近くにいた2人は、坂本が高杉に執着していることにはとっくに気付いていた。そして、あの高杉が、坂本を認めたら、自分達もアイツを担任として受け入れようか、なんて話にまでなっていたのだった。

「仕方ないッス、坂本だけは先生って認めてやるッスよ」
「そうでござるなァ」
よく晴れた夏の午後。2人は、そのままは帰らずに、家とは反対の、繁華街へと繰り出した。

***

万斉と来島を見送って、病室に戻る。食べている時からずっと、ほとんど口を出さない辰馬の様子に気付いていた。いつもうるさいくらいに笑ってばっかりの奴が、やたらに大人しいと調子が狂う。

「辰馬」
2人きりになってようやく、高杉は下の名前で恋人を呼んだ。

「すまんの、ちくっと頭が働かんくての」
左手で点滴を引きずりながら、高杉は右手で、坂本の額に手を当てた。

「熱はないみてェだけどな。どーしたんだ?お前」
いつもと違う様子に不安が込み上げる。せっかく、いつもより早い時間から会えているというのに。
とにかく病室に戻って、辰馬を椅子に座らせた。

「…そういえば、お前昨日、ちゃんと寝たのか?」
自分が、昼まで起きれなかった理由も、そこにあることを思い出して高杉は尋ねた。

「いんや、実は一睡もしとらんのじゃ」
「そりゃお前、眠ィだろ」

だったら、こんな日くらい、さっさと帰って寝ればいいのに、とは思ったが、口には出せなかった。坂本のことを思ったら、今すぐ帰れと、言ってやるべきなのだろうけど。
高杉は、それが言える程、大人ではなかった。

「晋助、わし、ちくっと寝てもいいかのう?」
「…ここで?」
ついに、ベッドに座っている高杉の、太腿あたりのスペースに、頭をつけた坂本が尋ねた。

「お前が、その体勢でいいんならな」
正直、辰馬にはまだ帰ってほしくない。もうちょっと、側にいてほしい。でも、辰馬が眠いからと言って、ベッドを変わってやるわけにもいかないし。

「充分じゃよ。すまんの、30分経ったら起こして」
その声の最後は、今にも消え入りそうで、辰馬はそのままベッドに横向きに頭を乗せて、小さく寝息を立て始めた。

頭の下になっている辰馬自身の左手と、その近くに添えられている右手。いつも通りカーテンは閉め切った。だから。
高杉は、自分よりはるかにデカイ坂本の右手をそっと握った。手を重ねて、坂本の寝顔を見ていたら、不思議と退屈には感じなかった。
いつもしてもらっているように、髪の毛がポンポン跳ねた坂本の頭に手を乗せて撫でると、不思議と、自然な笑顔が、作られるような気がしていた。

込み上げてくる、暖かい気持ちの名前を、高杉はまだ知らなかった。

***

ピクンと一瞬身体を震わせた辰馬が、ゆっくりと上体を起こす。
次第にはっきりと見えてくる周りの情景に、そういえば晋助の病室で眠ってしまったのだと思い出した。

「おはよ」
高杉は、彼にしては有り得ない程珍しく、おとなしくベッドに座っていた。坂本が眠る前と同じように。

「晋、わし、どんくらい寝た?」
テーブルの上に置いて読んでいた本をパタンと閉じて、高杉は起きたての坂本を見た。

「2時間ちょっとくらい」
「なっ…」

30分で起こしてと言ったはずなのに。せっかく一緒にいるのに、こうも長い時間放ったらかしにしてしまっては、さぞかし不機嫌だろうと坂本は慌てた。

「すまん!晋、寝過ぎじゃ!こんなに寝るつもりはなかったんじゃ!」
あんまり必死な坂本の姿に、高杉は声を上げて笑い始める。

「晋…?」
「なんだよ、お前?なんでそんなに一生懸命なワケ?」
目尻の端に、涙を浮かべる程の大笑い。坂本は、予想とは正反対の反応にポカンと口を開けて高杉を見ていた。

「起きたんなら、屋上付き合え。あ、それから、コレ貸しといて」
テーブルの上にあった本は、坂本のものだった。鞄の中から勝手に出したのだろう。
最近忙しくて、持ち歩くだけ持ち歩いていて、全然読めていなかったから構わないのだが。

「校内一の不良がソレに興味を示すとはの」
純粋に驚いた。本なんて読むイメージが全くなかったからだ。

『最後の幕閣〜徳川家に伝わる47人の真実〜』
「お前、それは偏見だ」
言葉程怒った様子もなく、高杉はベッドから降り立った。その姿に、妙な違和感を覚える。その理由は、すぐにわかった。

「晋、点滴は?」
「さっき外れた。風呂はまだだけど」
さっさと屋上へ行こうと、高杉は坂本の腕を引いた。

すっかり夕方の時間になってはいたが、夏の陽は長く、外は十分にまだ明るい。いつもの、カードゲームに興じる若者たちも、この時間にはもういない。

屋上には、2人きりだった。

うっすらと、赤みを帯び始めている西の空を2人で見上げていた。じりじりと汗は滲むけど、何故だか今は気にならない。お互い何も言わなかったけど、沈黙が心地良いと思った。

「なァ、辰馬」
どれくらいそうして黙っていただろうか。沈黙を破ったのは高杉の方だった。

「何?」
視線は空に向けたままの晋助の横顔を見る。

「辰馬に会いたいとか、辰馬の側にいたいとか、いつの間にか辰馬のこと考えてるってのは、やっぱり俺は、お前のことが好きなんだろうな」
「晋、助…」

他人の寝顔を見ていて、あれほど退屈しなかったのは初めてだった。だから、30分経っても起こしたくなかった。勝手に起きるまで、寝かせてやろうなんて、誰かに対して思ったのは初めてだった。

以前の自分なら、放っとかれるのが嫌で、誰かといるのに独りみたいなのが嫌で、叩き起こしていたに決まっている。自分が眠たい時には、遠慮なしに寝たいだけ眠るくせに。しかも、起こされても全然起きないくせに。

「なんで、お前なんだろうな」
クスクス忍び笑いを漏らす晋助の横顔はとても綺麗だと思った。

「もっとカワイイ女の子でもよかったはずなのにな」
「それはお互い様」

もう我慢できなくなって、辰馬は高杉の細い身体をぎゅうっと抱きしめた。点滴が外れた今、もう前ほどの遠慮はいらない(傷は治ってはいないのだけれど)。

「でも、わしは、どんなカワイイ女の子よりも、世界の中の誰よりも、晋が一番、好きなんじゃ」
「うん。…俺は、お前だから、側にいてほしい」

本当はちょっとだけ、万斉と来島が羨ましかったんだ。俺は1人でいいと言いながら、いつもセットみたいに一緒にいるアイツらが。朝には一緒に騒いで、昼には一緒に昼寝して、午後には言い合って、それでも放課後になったら一緒に帰ったりするアイツらが。

「俺の、高校最初の夏休みは、ここで終わるけど、お前がいればいい」
きっともう、両目でお前を見ることはできないだろうけど。

考えてみたら、学校だって病院だってあまり変わらない。ただの白くて四角い箱だ。その箱の中に俺がいて、お前がいて、時々一緒に時間を過ごして、それでいい。

「晋」
頬に手をあてられて、上を向かされるのと同時に唇が重なった。

辰馬の広い背中に腕を回して、ひたすらその、幸せなキスを享受する。
好きな奴とするキスだから、こんなに気持ち良いものだったんだと、俺はその時初めて知った。

これが、誰かを好きになるということだったんだ。もっと一緒にいたいだとか、気になって仕方ないだとか、キスしたい、だとか。

どうせみんな、いつか離れていくから、それなら1人でいいとか、そんなこと、いざ人を好きになってしまったら、関係ないのだと思った。確かに、このままずっと、死ぬまで辰馬と一緒にいれるかどうかなんて、わからない。不安がないかと言われたら、不安だらけで死にそうだと、答えてしまうだろう。だからと言って、この気持ちを認めないことは、もっと、ずっと苦しいことなのだ。それは全部、辰馬が教えてくれた。

「辰馬、好き」
「晋、愛しちゅうよ」

電話ごしじゃない、直接顔を見ながら交わしあった言葉は、ものすごく恥ずかしくて照れ臭かった。


3Zの晋ちゃんはツンデレではなくてお子様なんです!辰馬に愛されて、大人の階段昇っていけばいいです
途中出てきた『最後の幕閣』は、特に真選組好きな人は読んだ方がイイと思うデス。

そして、何故か万斉とまた子らぶらぶ…ι






















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