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入院が1週間を過ぎる頃には、高杉はもう、いつもの調子に戻っているようだった。

高く青い空の向こうに見つけた太陽 14


「高杉ィ〜」
外科病棟の病室を訪れると、やっぱり高杉はベッドにはいなかった。

「さて、今日はどこに行ったのかのう」
絶対安静だと、重傷なのだと、何度言われても、高校生の高杉にはベッドの上の生活は退屈なようで。何度看護士に見つかって怒られても、またすぐにどこかへ行ってしまうようだ。
病室へ来る前に、待合ロビーの横の喫煙室は覗いてきたが姿は見えなかったから、今日は屋上だろうか。

鞄を置いて院内を探しに出た。
目星をつけた通り、高杉は病院の屋上にいる。いつの間にか仲良くなったらしい数人の患者と共に。
まだ、点滴のチューブがついたままだというのに、いつもそこに集まっているという20代前半の若者3人と、トランプに興じていた。

「はい、ストレートフラッシュ」
「また晋助かよーっ!!」
「ハイハイ、お前ら出すもん出しなァ」

高校生が、お金を賭けてポーカーとは。賭けているお金は小銭のようだからまだいいけれど。

「高杉ー!」
「お、晋助、先生のお迎えだぜ〜」

坂本の姿を確認した高杉は、じゃあまた明日なと言って立ち上がる。点滴を引きずりながら素直に歩いてくる姿に、安心しながらも、絶対安静なのは変わっていないのに、と溜息をつきたくなる。

「ずいぶん仲良くなったんじゃの」
並んで病室へ戻る為、階段を降りながら、話しかけた。

「ん?そうか?」
高杉本人は、あまり気にしてはいないようだったけれど、この胸に渦巻くのは、…嫉妬だ。

「名前で呼ばれとったの」
「名前…?ああ、そーだな」
自分なんて、未だに『高杉』としか呼んだことがないのに。呼べずにいるのに。

「何、お前、もしかしてそんなこと気にしてんの?」
高杉が、本気で驚いたような顔で坂本を見上げた。

「物凄く気にしとるんじゃが…」
晴れて恋人となったはず…なのに、未だ苗字で呼び合っているという、細かいことなんだけれども。

「馬鹿。好きに呼べばいいだろ」
「いいんか?…晋助って呼んでも」
もう、恐る恐るとしか言いようのない、やっとの想いでその名を口にしたのに、返事はアッサリしたものだった。

「呼べよ」

「晋助!」
「ンだよ」
「晋助!…晋助!」
「ンだよ、しつけェっ!」

屋上から7階へ降りる階段の途中には、2人以外誰もいない。だからといって、抱き着いてきそうな勢いの坂本に、怒鳴ってみせた高杉だが、あまりにも嬉しそうな表情で見つめられて、あっさり怒気は抜けてしまった。

「お前って…、おおざっぱに見えて、変なとこ細かいのな」
やっぱり、逃げる間もなくやわらかく抱きしめられて、そのままの体勢で、言ってやると、それは自然と耳元で囁く感じになった。

「晋助のことだけじゃ」
身体を離して、坂本はふにゃっと笑った。

(晋助のことになると、自分はとても弱くなる)
坂本にとって、それは、今までに一度も感じたことのない想いだった。

「しっかし、晋助は、悪いことばっかり知っとるようじゃの」
身体を離して、高杉の右腕を取りながら坂本は言った。病院着の袖の中に素早く手を滑り込ませる。

袖口の布は内側に折り返されて縫いつけられ、二重になっているのだが、そこの、縫い目の一部がほどかれて、トランプが2枚挟まっている。

「お前、気付いてたの」
「気付いとったよ。あの若者達は全然みたいじゃけど」
「そりゃそーだろ。気付いたお前も相当悪いコト知ってんだろ」
くくっと喉を鳴らして高杉は笑った。

「あんまり感心せんの」
いつの間にか、時々は笑ってくれるようになった晋助を、どうしようもなく好きだと思う。諦めなくて良かったと安堵すると同時に、好きで好きで、たまらなく不安になる。

「遊びだからいーんだよ。だいたい、賭けてたのも100円だぜ」
高杉にしては随分かわいい金額で、坂本はそれ以上言うのはやめにした。

「ほどほどにの」
さっさと歩いて階段を降りて行く高杉を追い掛けた。

7階からはエレベーターで病室のある5階へ向かうと、直ぐさま看護士が駆け付けて来て高杉はめちゃくちゃに怒られたが、いくら言われても全然堪えていない様子の高杉に看護士は呆れて病室を出て行った。

「あんまり心配かけたらいかんぜよ」
「黙って寝てろってのが無理な話だろーがよ」
「学校ではずっと寝とったくせにの」

「それはお前、夜中起きてるからだろ」
ベッドの上に戻った高杉は、カーテンを閉めきったとは言え、4人部屋であることを考慮して、少し小声で応えた。

「人間は夜寝て昼は起きるもんじゃよ」
「お前だって朝まで飲むくせに言うな」
「わしはたまにじゃ」
「どーだか」
ぷいっと顔を背けて拗ねてしまう高杉。

「晋助」
「…」
「しーんーすーけー」
「…」

ベッドの脇の椅子からは、高杉の表情を窺い知ることができない。

「晋助…わし、帰った方がいいがか?」
本気で怒らせてしまったのだとしたら、自分はどうしたら良いのか、対処の仕方がわからない。これ以上泥沼にはまりたくない。だからと言って、逃げるのは一番情けないということくらいは百も承知なのだが。

ピクと高杉の肩は震えたが、相変わらず背を向けられたままで返事はない。

「プリント置いていくきに。また明日…」
「待って辰馬」
「…!!」 立ち上がりかけた坂本の動きが止まった。

「し、しん…」
点滴の繋がったままの左手で坂本のシャツを掴んだ高杉は小さく震えていた。

「わかった。…面会終了の時間までおるからの」
抱きしめてやると、乗り上げたベッドはミシッという悲鳴を上げたが、気にしている余裕はない。

「……して」
耳に届くか届かないかの弱々しい声で呟かれた言葉を、坂本は聞き逃さなかった。まさか、言われるとは思ってもみなかった言葉だったからだ。まだ、一度も高杉に『好きだ』と、言ってもらえていないことなど、軽く吹っ飛んでしまう程に。

「晋、……じゃ」
周囲には聞こえないように、細心の注意を払って好きだと告げ、望み通り唇を重ねてやった。

「んっ…」
(辰馬…)
坂本が側にいてくれるだけで安心した。好きだと言われることが嬉しかった。もっと側にいたいと、どんどんわがままになっていく自分に気付いている。これが、誰かを好きになるということなんだろうかと、考える度に桂の言葉が蘇る。

だけど、それをどう伝えたらいいのかが、俺にはさっぱりわからない。

「辰馬…どーしよ」
ぎゅっとしがみついてきた高杉の言っている意味を、坂本はすぐに理解する。

「晋…どうしよって言われてもの…」
キスで感じてくれたというのが、これ以上ないくらい嬉しかったのだが、ここは病室で、個室でもない。

「ごめんなさいねー、今日は随分遅くなったけど、お風呂入れますよ」
病室の入り口から看護士の声が聞こえてきて、坂本は慌ててベッドから降りた。

「高杉君、またどっか行ってるの?」
閉めきっていたカーテンを開けられそうになって、高杉に布団をかけて坂本はカーテンの外に出た。

「すまんの、高杉は今寝とるんじゃ」
「あら、坂本先生。どうしましょう、高杉君お風呂入れないから、蒸しタオル持って来たのに」

毎日毎日、問題患者の高杉を見舞う坂本のことは、看護士達の間で噂になっていた。ただでさえ長身で方言のデカイ声は目立つ上に坂本は、世間一般から見れば十分に、女が振り返る『いい男』だった。それに加えて、看護士達を悩ませる高杉が、坂本が来るとおとなしくベッドに戻るという事実。

「高杉は風呂無しがか?」
「そうですよ、あの子まだ包帯外せないから」
「じゃ、そのタオル、わしが預かってもいいかの?身体拭いてやればいいんじゃろ?」

高杉が看護士に身体を拭かせているのかと思ったら、なんだか胸のあたりが異様にムカムカする。それでも坂本は、いつもと変わらぬ笑顔で看護士に申し出ていた。

「でも、高杉君、いつも自分でやるってきかないんだけど。…坂本先生、高杉君起こせます?」

後半声を潜める看護士の様子からして、あの高杉の寝起きの悪さに手を焼いているのだろう。自分が初めて高杉の寝起きを見た時を思い出したが、それよりも、高杉が自分で身体を拭いていたことに安心した。

「大丈夫じゃよ、学校でもいつも寝とったからの。タオル預かるきに」
ホッとした顔で看護士は、袋にたくさん詰め込まれた蒸しタオルを坂本に渡した。

看護士を見送るついでに病室内を見ると、みんなお風呂に行ったようだ。

「晋助」
「お前、余計なこと言いすぎ」
坂本の意図を理解して、布団の中で大人しくしていた高杉がムッとした顔で坂本を迎えた。

「すまんすまん。それより晋、早くその病院着脱ぐんじゃ」
「は?…身体は自分で拭く…」
「早く、今わしらしかおらんのじゃ」
「おまっ、何言っ…んふっ…!!」

有無を言わさず高杉に口づける坂本。舌を割り入れて口腔内を貧った。唇を押し付けたまま、下着ごと、高杉の病院着を引きずり下ろす。

「ァっ…やめっ…!!」
ようやく離れた唇と唇を繋ぐ、銀色の糸がやたらになまめかしい。

「晋、すまんが、声我慢しとっての」
既に熱を持って、主張を始めている高杉自身を、坂本は少しの躊躇いもなく口に含んだ。

「んァっ…た、つ…」
漏れてしまった己の声に驚いたのか、ビクッと身体を震わせた高杉は、両手で口を塞ぎ、ぎゅっと瞳を閉じて与えられる快感に身を震わせた。

なんて綺麗な肌なんだろうと思ったが、見とれている余裕などなかった。細いが、程よく筋肉のついた身体。きめ細かくなめらかな肌。一晩中でも抱いていたくなると思ったが、残念ながら、それはまだまだ、叶うことはない。

耳まで赤く染めながら、ぎゅっと瞳を閉じて耐えている姿が、とんでもなく色っぽい。
坂本は、口と手をフルに使って、高杉の欲を吐き出させることに集中した。

本当は、なんとなくわかっていた。

ヤリたい盛りの高校生が、しかも、2、3日おきには夜の街で、誰かと身体を重ねていた高杉が、長い入院生活でどうなるかということくらいは。でも、どうしてやることもできなかったから、知らぬフリをしてきた。

しかし、今は違う。今しかないのだ。
「ァっ…だ…ダ、メ…っ!!」

高杉の手が、思い切り坂本の髪の毛を掴んで引き上げて、引かれるがままに口を離した瞬間、手の中に大量の白濁が飛び出した。

まだ、動けずにいる高杉に口付けながら、テーブルのティッシュに手を伸ばした。

「口に出してくれても良かったんじゃよ?」
「嫌なんだよ」
プイと横を向く高杉だが、下半身があらわになったままでは格好のつけようがない。

「早くタオル寄越せよ」
起き上がって、上も脱いで身体を拭き始める高杉。

「見んな!見んなったら見んな!」
腕や腹や太腿に包帯が巻かれたままではあるが、坂本は初めて見る高杉の身体から目が離せない。

「見んなっつってんだろ!」
語調を強める高杉だが、今となってはもう、全然恐くない。

「手伝ってやるろ〜」
坂本もまだ熱いタオルを取り出して、高杉の背中を拭いてやる。

「いいって、自分でやるって!」
今あんなことをしたばっかりだと言うのに、恥ずかしがる高杉がかわいくて仕方なかった。背中を拭きながら、我慢できなくなってそのまま抱きしめる、後ろから。

「辰馬」
抱きしめた腕に高杉の手が重なった。

「ありがと…」
小さく小さく、呟くように紡がれたその言葉を、きっと自分は一生忘れないだろう。

続く






















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