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身体がふわふわ浮いているような気がする。

高く青い空の向こうに見つけた太陽 12


今日も、コンクリートジャングルでひとりだ。
夜なんて恐くない、だけど。

誰でもいいから側にいてほしいなんて思うようになったのはいつからだ?そしてそれを、身体を使うことで埋めて来たのはいつからだ?

『高杉の、側にいたいんじゃ』
どこかから、声が聞こえる。ああ、また坂本の馬鹿が何か言ってるよ、どうしよう。

『高杉に、寂しい思いをしてほしくないんじゃ』
俺って、寂しかったのか?

誰でもいいから、側にいてほしいと願うのは、この気持ちは寂しいのか?

「お前は、本当に、ずっと俺の側にいるって言うのか?」
顔を上げたら、そこに、いつものあの笑顔の坂本が立っていた。

お前の、その手を取れば、俺は変われるのか?

『高杉、好きじゃ』
…お前を、信じていいの?
右手を伸ばすと、そこから、坂本の温かさが伝わってくるような気がした。

周りが真っ白で、何も見えなくなる。

***

「…高杉…高杉…っ…うっ」
最初に聞こえてきたのは、誰かのすすり泣く声。俺を、呼びながら。

視界がぼんやりして、自分がどこにいるのかわからなかった。
(あれ、俺、昨日はどこに泊まったんだった?)

寝起きに全く頭が働かないのはどうにかならないものなのか?
寝返りを打とうとしたら、身体が動かなかった。

「高杉っ!!」
異様に狭い、視界に入って来たのは、パンパンに目を腫らした坂本だった。

「お前、…何で、泣いてんの?」
「たか…すぎっ…」
尋ねたら、坂本は余計に、両方の瞳からボロボロ涙を零した。

「泣くなって」
手を伸ばそうとしたら、俺の右手は、坂本のデカイ手でしっかり握られていて、べっとり汗をかいていた。だけど、どうしてか全然嫌な感じなんかしない。

仕方なく坂本から遠い左手を動かそうとしたけど、なんだか違和感があって動かなかった。

俺の左腕には、線がいっぱい繋がれていて、ベッドの横にはいくつかの機械が、俺が生きているという証の規則正しい音をたてている。

(ああ、そうか)
ようやく俺は、昨夜のことを思い出した。

「坂本…、泣くな」
「じゃって、高杉…」
「泣かれたら、…困る」
坂本に握られていた右手を頬に当て涙を拭ってやる。

「泣くなって」
手を、頭の後ろに持っていって、軽く力を込めると、坂本の頭は何の抵抗もなく簡単に近づいてきた。

「たかっ…んっ…」
なんで、そんなことをしようという気になったのかはわからない。

***

高杉の母親に連絡が取れて、病院に駆け付けてきたのは夜もだいぶ更けてからだった。

眠気はピークに達していたが、保護者に連絡が取れず、坂本はベッドで号泣。1人帰るわけにもいかず、廊下の固い椅子で横になってウトウトしていた銀時は、連絡を受けて病院の入口で高杉の母親を待つ。

隣のクラスの担任であることを告げ、高杉の病室を訪れると、真っ赤な顔の坂本がベッドから離れたところだった。

高杉の母親と軽く挨拶を交わして、銀時と共に廊下に出る坂本。何となく、理由はないけれど、扉の横に2人並んで立った。

「お前、どーしたの?熱でもあんの?」
坂本の異変に、銀時は敏感に気がついた。

「銀時…わし、」
「どーしたのよ?」

銀時に覗き込まれ、ますます赤くなる坂本。右手で顔を覆って、耳まで赤くなった坂本なんて、そうそう見れるモノではない。

「キスされてしもうた」
「はァ?」
キスしちゃった、じゃなくて、されちゃった?高杉から?

「泣くなって。わしに泣かれたら困るって」
そういえば、さっきまで一生分の涙を使い果たすつもりなんじゃないかという勢いで泣いていた坂本が、今は泣いていない。

「なぁなぁ、俺が思ってるコト言っていい?」
「なんじゃ?」
とにかく、さっきまで銀時が横になっていた椅子に並んで座る。

「お前が名刺渡したの、5月なんでしょ?高杉、その名刺ずっと持ってたんだよね?」
その名刺のおかげで、自分達は、いち早く連絡を受けることができて、学校にも連絡できて。

「嫌いな奴の名刺なんて、さっさと捨てるよね。お前ってさ、本当は、けっこう前から、高杉に想われてたんじゃねェ?」
なんか銀さん羨ましい〜と、銀時は笑った。

「まさか、そんな。たまたまポケットに入ってただけじゃろ?」
「でも、5月って、まだ冬服だよ、制服」
少なくとも、1回は手に取って、夏服に移動させているのだから。

病室から、高杉の母親が出てきた。
「坂本先生、これからも息子をお願いします」

仕事中のところを抜け出して来たようでスーツ姿の高杉の母親は、きれいな人だった。これからまた、会社に戻るという。自分達は、朝まで付き添うつもりであることを告げ、高杉の母親を見送った。

銀時は、ナースステーションで借りてきた毛布にくるまって、廊下の椅子に横になる。
坂本は、また高杉の病室。

高杉は、眠っていなかった。

「まだいたのかよ?」
「…朝まで、おるつもりじゃよ」
ベッドの横に座り再び高杉の右手を握る。

「高杉、眠ってくれてもいいぜよ?」
「なんか、眠くない」
頭から左目にかけてを包帯で巻かれた高杉が、右目だけで坂本を見上げている。

「坂本、俺が望めば、お前は本当に側にいてくれるのか?」
「高杉…。もちろんじゃ!」
握る手の力を強めて坂本は応えた。

「俺が、卒業しても?」

「高杉が望むなら、一生じゃ」
「坂本って、本当に馬鹿だよな」

相変わらずの物言いながら、クスリと高杉は笑った。坂本は、初めて見たその笑顔の美しさに坂本は見惚れてしまって動けない。ずっと、ずっと見たいと願っていた笑顔だったから。

「俺は、お前のこと、好きかどうかがわかんねェ」
高杉は、坂本から目を離さずに続けた。

「だけど、信じてみようと思ってる」
俺のために、あんなに泣いてくれた坂本だから。毎日毎日好きだと言ってくれるお前だから。

「高杉…っ!!」
たまらなくなって、坂本は高杉の唇に、自分のソレを押し付けた。唇を割って舌を滑り込ませ、深くて甘い口づけをじっくり味わった。

「んっ…っ」
息が続かなくなって、坂本の胸をドンドン叩くと、ようやく唇が離された。

「馬鹿っ!いきなりすんな!!」
肩で荒い息をしながら高杉は坂本を睨みつけた。でも、今となっては全然恐くない。

「すまん、もう我慢できんかったんじゃ」
「お前なぁっ」

人が動けなくて、逃げ場がないのをわかってていきなりするなんて最低だ!と高杉はブーブー文句を言っている。

「じゃって、一体いつから、我慢しとると思っとるんじゃ」
「そんなの知らねェよ」
視線を逸らした高杉に覆い被さるように、細い身体を抱きしめた。

「坂本…。裏切ったら殺すからな」
「構わんよ。わしは絶対に、そんなことはせんからの」
抱きしめられたまま、高杉は自由な右腕を坂本の背中に回した。

「高杉、愛しとる」
「…うん」
「毎日見舞いに来るきに」
「ん…。…なぁ、坂本」
やや長い沈黙の後に、高杉が坂本を呼んだ。

「俺って、いつまでココ?」 重々しく繋がれた機械類から、しばらく入院を強いられることになるだろうとは想像できるけれども。

「明日になったら、外科病棟に部屋を移動できるそうじゃよ」
「そうじゃなくて」
坂本が言葉を濁しているような気がする。

「ハッキリ言えよ」
「…2ヶ月の、予定じゃ」
「………………マジ?」

「高杉、どっか痛いところないがか?」
抱きしめたまま、坂本が尋ねた。

「ァあ?…今はねェけど」
今から2ヶ月ということは、9月の半ばまでだ。夏休みの間中、病院暮らしということになる。最低だ。
特に夏休み中にしたいことなどなかったが、なぜだかがっくりきてしまった。

「だったらいいんじゃけど…。高杉、おんしは結構重傷なんじゃよ」
斬られたのは顔だけではない。全身に数ヵ所、そのうち1つが深くて、内臓近くまで達しているという。

「絶対安静なんじゃよ」
「だったら、なんでお前そーやってんだよ」

絶対安静だと言いながら、覆い被さって抱きしめているくせに。高杉は坂本に気付かれないように、こっそり微笑む。まぁ、夏休みがなくなっても、コイツが毎日見舞いに来るならいいか。本当に毎日来るかどうかはわからないが、坂本なら、本当に毎日来そうな気がする。

「…それも、そうじゃの…」
寂しそうな表情を見せながら、のそのそ動き出して、ベッドの隣の椅子に座り直そうとする坂本。

「いいぜ」
「高杉?」
「もうちょっと、そーやってて」
自分より少し高い坂本の体温が心地よくて、離れてほしくなかった。

「高杉…キスしていいがか?」
今にも唇が触れそうな近くまで顔を近づけて。

「そんなもん、いちいち聞くな」
さっき、いきなりするなと怒られたから聞いたのに、と苦笑いしながら坂本は唇を重ねてきた。
やわらかく唇をなぞられ、舌を絡ませて吸いあげられて。クチュという水音だけが、いやらしく思考を侵食していく。

(ヤベェ…くせになりそう)
どんどん思考能力が落ちていく頭で、高杉は、その気持ち良さに身を任せた。
坂本は、何度も何度も、唇を重ねてきた。これまでの何ヶ月かを埋めるように。

抱きしめられて唇を重ねることで、坂本の優しさとか、温かさとかが、自分に流れ込んでくるような、そんな錯覚を憶えた。

「坂本……寝て、いい?」
「かまわんよ。ゆっくり休んだ方がええ」
「俺の寝起きは知ってるな?」
もう、半分閉じかけた瞳で高杉は坂本を見た。

「わかっとるよ。すぐに慣れるきに、安心しい」
頭を撫でてやると、高杉は微笑みながら瞳を閉じて、しばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてきた。
それまで、必死で気を張り詰めていた坂本も、ベッドと壁の狭いスペースに、大きな身体を縮こませてうたた寝をはじめた。


続く



やっとラブラブ…かもしれない?






















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