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思いきり爆睡したような気がする。

高く青い空の向こうに見つけた太陽 10


上手く働かない頭で時計をみると、とっくに放課後の時間になっていた。

「いくらなんでも寝過ぎだ、俺」
わかっていて、口には出すのだけれど、なかなか身体が動かない。
朝に弱いというか、寝起きに弱いというか。

「あー、駄目だもう」
なんとか起き上がって、それから暫くの間そうやって座っていた。

目を覚ましてから、行動を始めるためには、いつも30分以上かかるのだ。
ようやく立ち上がった高杉は、坂本に資料室の鍵を返すために、職員室へ向かう。

「だからさー、さっさと起こしに行けっつうの!」
「銀八が行ってくれんかの?」
「俺は嫌っ!」

職員室を覗くと、さすがに放課後だけあって、教師の姿はまばらで、何やら坂本と銀八が言い合いをしていた。

「せんせ」
何やってんだコイツら、と思いながら高杉は坂本を呼んだ。

「高杉…!」
あからさまにビクッと身体を震わせた坂本が振り返った。

「鍵。サンキュー」
「あ…ハイ」
(…ん?)
なぜだろう、坂本の反応が、いつもと違う。違和感がある。

「じゃー、俺、帰るから」
「ああ、気をつけての」
やっぱり何かおかしい気がする。

「高杉…、すまんかったの」
坂本が、あの、苦しそうな表情で高杉に告げた。

「は?…なにが?」
全く意味がわからず、怪訝な顔で立ち止まった高杉は問い掛けた。

「ほーら、坂本」
黙って見ていた銀八が口を挟む。

「なにがだよ、天パ野郎」
言い放つ高杉の目付きが急に鋭い。それは、意識してのことなのか、それとも、本人も気付いていないのか。

「お前ね、先生だって好きでハネてんじゃないんですよっ!」
「ウザイ、天パ」
「ちょっと、自分がサラサラストレートだからって、酷いんじゃないのソレ?」
「性格ひん曲がってんのが髪の毛にも出んだよ、バーカ」
「関係ないですー!だいたい、お前の方がよっぽど性格捻くれてんだよ!」

職員室にも関わらず、ギャーギャー言い争いを始めた2人を、坂本が止めた。職員室にいた他の教師達は、関わり合いにならないように、ならないようにと、職員室を出て行ったり、一番奥の、扉で隔てられた休憩室へ消えたり。

「高杉、ほんに、すまんかったの」
「だから何がだよ?意味わかんねェし」 銀八との応酬に、いつもと違う坂本。高杉は苛立ちを隠しきれないようだ。

「わし、相当ウザかったんじゃの」
「は?」
坂本が、なんでそんなことを言い出すのかが、全くわからない。

高杉の知っている坂本とは、いくら『ウザイ』と言ってやろうとも、笑い飛ばしてしまうような奴で、だからこそ、『ウザイウザイ』と言い甲斐もあるというのに。こんなの坂本じゃない。

「高杉、お前ってさ、めちゃくちゃ寝起き悪かったりしない?」
銀八の問い掛けに、細い目をいっぱいに見開いて驚く高杉。どうやら、恥ずかしいらしい。

「なんで知ってんだテメェ」
それには答えず、銀八は、立ち上がりながら高杉の背中を、坂本に向かって少しだけ押した。

「言っただろ?坂本。俺見回り行ってくるから」
銀八が出て行って、職員室には2人きりになった。

「なんなんだよ?お前、変だぜ」
空いた銀八の椅子に、遠慮なく高杉は座った。前屈みではあったが。高杉は、自分でも意識しないうちに、元気のない坂本を気にしていた。

「ウザイから消えろって、言ったじゃろ?」
「俺が?」
眉をひそめて尋ね返す高杉。

「そこまで嫌われとったのに、すまんかったの、と思っての」

ここまで泣きだしそうな坂本の顔なんて、今まで見たことがない。正直、このまま泣かれてしまったらどうしようという気持ちが、高杉の中で一番強かった。そういう場面には、あまり遭遇したことがない。対処の仕方がわからない。他人との、そういった、コミュニケーションの取り方が、高杉にはわからない。

「俺、全然記憶にねェんだけど…」
「無意識で出た言葉ってのは、それが本音じゃろ?」
「坂本」
名前を呼んで、慎重に言葉を選ぶ高杉。そのため、間があいて、気まずい空気が流れた。

「俺を、起こしてくれたのか?」
「いんや、昼休みに、資料室に銀八が来ての。話し声で起こしてしまったんじゃ」
「…俺、それ記憶ねェから」
何しろ、2限目をサボると決めて、資料室に行き、気がついたらさっきだったのだ。

「さっき、あの腐れ天パが言ってたけど、寝起き、悪ィんだよ、俺。ウゼェって言ったのかもしんねェけど、記憶ないし。きっと、相手が誰だろうと、誰にでもめちゃくちゃ言う」

多分、唯一であろうが、高杉の寝起きの悪さを知っている桂がいつも、後からボロクソにけなすのだ。確かに、本当に自分が言ったのか?と思わせるくらい、人に起こされた時の自分は無意識にヒドイ言葉を吐いている。しかも、自分には全く記憶がないからタチが悪いし、どうしようもない。

「…そうなんか?」
坂本の顔が、ようやく明るくなった。高杉も、少し安心したように、背もたれに身体を預けた。

「お前に、そんな顔されると困るんだよ」
「えっ?」
「俺が原因で、そんな顔されても、どうしたらいいか、わかんねェ」
「高杉、それって」
自分は特別だと、そう思ってくれていると理解して良いのだろうか。

「誤解すんなよ、アンタは、ウゼェから坂本なんだよ」
「なんじゃ、そりゃ」
喜んだのは一瞬で、またガクっと肩を落とす坂本。

「そんな顔されたら調子狂うだろ?…だいたい、なんで俺の言ったことに、いちいちそんな反応するんだよ」
坂本の答えは予想できる。予想できるが、高杉は突き離すことしか術をしらなかった。

「やめろよ、そういうの。…困るんだよ」
高杉は目を伏せて、じぃっと見つめている坂本の顔から視線を外した。

「わしに、好かれるのは迷惑がか?」
「そうとは言わねェけど…。アンタはどうしたいんだ?俺とヤリたいの?」

今は2人きりで、誰もいないとは言え、ここは職員室だ。あまりにストレートな高杉の言葉に、坂本は目眩を覚えた。確かに、ヤリたくないのかと問われたら否定はできないのだが、しかしそれはあくまでも、好きだという、感情の上での想いであって。

「高杉、わしは、おんしの身体が目当てなわけじゃないきに」
「お前は、どうしたいの?」
再び顔を上げた高杉の表情は、明らかに戸惑っていた。

「抱きしめてもいいがか?」
「職員室だけど?」
「誰もおらんよ」

拒否されなかったことを、OKなのだと受け取った坂本は、立ち上がって、座ったままの高杉をすっぽり腕の中に収めた。

「高杉の、側にいたいんじゃ」
「…そんなこと言われても、俺はいずれ卒業する」
卒業できるかどうかなんて、わかんねェけど。

「それでも、高杉が大人になっても、高杉の側にいてやりたいんじゃ」
「何ソレ」
「高杉に、寂しい思いをしてほしくないんじゃ」
「ソレってさ、何?同情されてんの?俺は」
高杉の両手が、坂本を突き放した。

「違う、そうじゃない、高杉」
坂本がすぐに否定するが、高杉は立ち上がり、もう坂本を見ていない。

「同情で側になんていて欲しくねェ。俺は、そんなに弱い人間じゃない」
「そうじゃないんじゃ、高杉」
「何が違うかがわかんねェんだよ!」
高杉の怒鳴り声は廊下にまでも響き渡る程、激しいものだった。

「…帰るわ。じゃーな」
そのまま、振り返ることもなく高杉は職員室を出て行った。

「高杉…!!」
坂本が、追い掛けようとしたが、今の怒鳴り声で、隣の休憩室に逃げていた教師達が恐る恐る顔を出す。

「大丈夫ですか?坂本先生」
「ああ、大丈夫です」
他の教師達が『大丈夫か』と尋ねた意味でなら、殴られたわけでも、暴れられたわけでもないのだから、大丈夫だ。

…だけど。

そうじゃない部分は、全然大丈夫なんかじゃなかった。


続く



なんかグダグダですね…(あ、いつもか)






















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