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4限目が始まる前に、出前を2人分頼んでおいた。

高く青い空の向こうに見つけた太陽 08


「うおっ、何ソレっ?坂本ありがとう〜ソレ、銀さんの分なんでしょ?」
お弁当を2つ持った坂本に、目敏く寄って来た銀八。

「違う違う、銀八のじゃないきに!触ったら駄目じゃ」
急いで机の上を片付けて、頼んでいたお弁当を2つ持って立ち上がった。

「え〜っ、ってお前、ドコ行くのよ?」
「それは秘密じゃよ」
「ちょっとちょっと、坂本ォ」
銀八が追うのも構わず、坂本はさっさと職員室を出て行った。

「もしかして、ちょっとは進展あったんかな」
銀八は、後で話を聞けばいいやと思って、自分の席に戻り、朝買ってきたクリームパンといちご牛乳にありついた。

***

雨でもないのに、坂本は資料室の鍵を開けてくれた。しっかり本人もついてきたけれど。

アイツ、…坂本は、俺の夜の顔を知っていた。だけど、非難されなかった。それどころか、頭を撫で、後ろから抱きしめてきた。

あんな風に、欲望とか下心とか、そんなものとは全く無関係に、ただ抱きしめられたのは久しぶりだった。
顔を見る度に声をかけてくる坂本。俺を好きだと言う坂本。
俺は、人に『好きだ』と言われるのが一番嫌いだ。

『ママは晋助が一度好きよ』
毎日そう言ってくれていた母親は、俺が小学校に上がると同時に、本格的に仕事に復帰して、それからほとんど家にはいなくなった。

家政婦が雇われていた時期もあったけど、どうしても俺がなつけなくて、そうこうしているうちに、俺もメシくらいは自分で作れる年になって。

俺は、あの家に独りになった。

ああ、結局そうやって、俺を好きだと言ってくれる人は皆、離れて行くのだと思った。

毎日毎日、坂本は声をかけてくる。それに、慣れてきている自分がいる。馴染んできてしまっている自分がいる。だんだんと、坂本を受け入れてしまいそうになっている自分がいる。

だけど、アイツは所詮先生で。これまで、俺の話を聞いてくれた先生は何人かいたけれど、結局最後は何にもしてくれなかった。担任から外れたり、小学校を卒業したり。結局そこまでの付き合いでしかなくて。

いや、そもそも俺は、あいつらに、何かをしてもらいたかったのだろうか?
もう、それすらも、今となってはわからない。

こんな身体、どうなってもいいやと思っていた。だから、ずいぶん危ない橋も渡ってきた。そんなことを、誰に知られたって、今更怖くはないはずだった。軽蔑するならすればいいと思っていた。

だけど。

『知っている』ことを告げた時の坂本の苦しそうな表情を見た時に、なぜだろう、どうしてかわからないが、急に苦しくなったのだ。

真っ直ぐに、坂本に見つめられることが、耐えられなくなったのだ。

もう、何年、忘れていたかもわからない、涙が一筋、頬を伝ったのがわかった。どうしてだ。俺はこんな、弱い人間じゃなかったはずだ。
何故だろう、俺の中に坂本が、少しずつ入ってくる。入ってくる度に、俺はどんどん弱くなる。

「高杉ぃ〜?」
昼休みが始まって少し経つと、その坂本が資料室に入ってきた。

手には、出前のお弁当が2つと、ペットボトルのお茶が2本。
俺は、目覚めてからずっと、頭の中をぐるぐる回っていた思考を、外に追いやった。
なぜだかわからないが、坂本には、考えていることが読まれてしまいそうな、そんな気がしたのだ。

「白身魚フライとハンバーグだったら、どっちがえぇかのぅ?」
起き上がった俺の隣に座った坂本が弁当を取り出した。

「お前、いっつもそんなん食ってんの?」
ハンバーグの方を選ぶと、坂本は『今日だけは特別じゃ』と笑った。

「さっき届いたばっかりじゃから、早よ食べ食べ」
促されるままに弁当を開けると、おかずが半分以上。これって、デラックスってやつじゃないのか?と、俺はついつい近所の弁当屋のメニューを思い浮かべた。

「しっかし、ハンバーグがいいとは、高杉もまだまだ子どもじゃのう」
「うるせー!」

隣で食べ始めた坂本の頭を、箸を持ったままの右手で殴ってやる。変なところにモノが入ったのか、口を押さえてひたすら咳込む坂本。

「ひどいのー、殴ることはないじゃろー」
瞳に、涙を溜めながら、必死になって訴える。

「お前の方が全然ガキくせェじゃん」
「何を言っとるんじゃ」
言いながら、坂本はまた、そのデカイ手で、俺の頭を撫でてきた。

「…俺さ」
急に大人しくなって、弁当を食べる手を止めた俺を、坂本は不思議そうに見つめていた。

「アンタは嫌いだけど、アンタにそうされるのは、嫌いじゃない」

坂本は、高杉の頭に手を乗せたまま、固まっていた。
最初の『アンタは嫌いだ』と言う言葉だけで、既に弁当の存在など、頭から消えてなくなってしまっている。
でも、高杉は、その後に、何と言った?聞こえたような、聞こえなかったような。頭が言葉を理解しない。いや、できない。
だってそれは、とてもじゃないけれど、言われるはずのないような言葉だったから。

「おまっ、いつまでそーやってんだよ!」
らしくないことを言ってしまった高杉は、耳までを赤く染めて坂本の手を振り払った。

「さっさと食わねェと、昼休み終わんぞ!」
顔を伏せたまま、がつがつ弁当を食べ始める高杉。そんな高杉が、どうしようもなく好きだ。どうしようもなく、愛おしい。
新しい表情を見つける度に、どんどんハマっていく自分に気付いている。

照れてしまって、恥ずかしくて、2人共無言のままひたすら箸を口に運んでいたら、あっという間に弁当はなくなってしまった。

「ご、ごちそうさん」
最初に、お弁当が入っていたビニール袋に、空っぽの容器を入れながら、目を合わせずに高杉がボソッと言葉を発した。それが、高杉なりの、ギリギリ限界の気持ちの表し方で。

「高杉」
ゴミの入ったビニール袋が床に落ちる。

「高杉、好きじゃ」
坂本に抱きしめられて、高杉は動けない。突き放そうと思えば、いくらでもできるはずだったのに、指1本たりとも、身体が動かなかった。

「俺は、…好きじゃない」
そう、言うのが精一杯で。

「わかっとる。…わかっとるけど、わしは好きじゃ」
「俺は、…好きだって、言われるのも嫌いだ」
「…だったら」

坂本は、高杉を抱きしめながら、右腕だけを動かして、赤く染まったサラサラの髪に触れた。
嫌いじゃない、と言われた、今のところたったひとつの行為。そうして、耳元で囁いた。

「いつでも甘えてくれたらええ」
好きだと言われることが嫌いなら。その理由は、わからないけれど、そのうち話してくれたら、それでいい。

「寂しい時はわしを頼ってくれんかの」
「…馬鹿じゃねェの」
胸元から聞こえてきた声は、発せられた言葉のキツさの割に、全く刺を含んでいなくって。

こんな、素直じゃないところまで可愛いくて仕方ないなんて、よっぽど重症じゃ、と。坂本は心の中だけで呟いた。


続く



んーっ、高杉君、全然落ちませんーっ!!なんでこんなに捻くれなのかなぁ!!あ、高階が捻くれてるからですかねっ!でもちょっと、揺れ動いて来ましたよねっ!この、中途半端な時期ってのが一番書いてて難しいっ(号泣)






















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