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「河上ー、高杉ー、来島ァー」
珍しく朝のホームルームに3人揃っていて、ちょっと安心した。

高く青い空の向こうに見つけた太陽 07


「なんでござるか?」
「なんスか?」
不機嫌そうに応える2人と、視線だけしか返さない高杉。

「おんしら3人、数学だけ追試じゃあ」
「えーっ!!」
ぶーぶー文句を言いはじめたのは来島。

「そんなこと言ったって、赤点とるおんしらが悪いじゃろー」
それにしても、あれだけ授業をサボっといて、追試になったのが数学だけというのは褒めてやるべきかもしれない。

あの夜の後、銀八が気をきかせて、ヅラに高杉のことをそれとなく聞いてくれていたから、本当は彼は頭がいいということは知っていた。
ほとんどの科目で平均点以上を取っているのも頷けた。

「今日は数学ないからの、ホレ、岡田先生からのプリントじゃ」
要するに、これだけやっておけば追試には受かるからやっときなさいという課題。

「面倒臭いっスぅ〜」
机の上に顎を乗せた体勢で、未だぶーぶー言っているのは来島。

「仕方ないでござるよ」
それを宥めながらも肩を落とす万斉。

先週の席替えで、この3人は、窓際の列の後ろに固まってしまった。くじ引きで席を決めたはずなのだが、窓際一番後ろの席を引いた高杉の、隣の席になった子が、来島と席を変わり、河上が高杉の前に来た。要するに、あんな怖い人と夏休みまで席が隣なのは耐えられない、というのが、来島と席を変わった女子の言い分で。

そこまで言わなくても、高杉が理由もなくいじめやなんかに走ったことはないだろうに、と思ってしまったのは、自分の贔屓目だろうか。 朝のホームルームを終えて教室を出ると、後ろから高杉が追い掛けてきた。

「坂本」
「んー?なんじゃ?」
朝から学校に来ているせいか、高杉はなんだかまだ半分寝ているような顔だった。

「鍵、貸して」
それが、社会科資料室の鍵のことだと、気付くのに時間がかかってしまった。
あれ以来、雨の日もたくさんあったのに、高杉が鍵を借りに来たのが初めてだったからだ。

「いいぜよ。でも、今は持っちょらんきに、先行っといてくれんかのぅ」
「先行くってどういう意味だよ」
「わし、1限目は授業ないんじゃ、持って行く」
「ふーん…。じゃあ、そうする」
背を向けて歩き出した高杉を見送って、職員室へと急いだ。

これはチャンスなんじゃないかと思った。どうなるかはわからないが、それでもとにかく、今から50分間だけは、2人きりになれるかもしれない、チャンスが訪れたのだと。

これまで坂本は、生徒に対して、恋愛感情など抱いたことがなかった。男だろうと女だろうと、生徒は生徒であり、『男』や『女』ではなかった。

それが、どういうわけか高杉だけは、『ただの生徒』として割り切ることが出来なかった。

「なんでお前までここにいるんだよ?」
埃臭い部屋のソファに横になった高杉が、不機嫌な声で悪態をつく。

「わしも追試作らんといけんからの」
これは本当だ。だけど、何もこの部屋でしなければならないことではない。無理矢理作ったに等しい理由。

「生徒の前でそんなもん作んなよ」
ソファに横になった体勢では、机の上なんて見えないだろうに。

「高杉は関係ないからいいんじゃよ」
確か、高杉の地理の点数は78点。真面目に授業を受けていても、もっと悪い奴なんていくらでもいる。

「アンタってさァ、ホント、イカれた教師だよな」
毎日毎日、姿を見る度に声をかけ続けた成果なのだろうか。呆れたように呟いた高杉が、ほんの少しだけ、口許を緩ませたのだ。

「高杉…」
「なんだよ?」
坂本は、椅子ごとソファの前に移動して、その、真っ赤に染まった柔らかい髪の毛にそっと触れる。

頭を撫でてやると、高杉は静かになって、目を伏せ、されるがままになっていた。
そう言えば、最初なんて、いくら呼んだって、声をかけたって、たかが『おはよう』という言葉にだって、無視されていたんじゃなかっただろうか。

そんなことを思い出したら、口が勝手に動いていた。
「わしがおかしくなったのは、高杉のせいじゃ」
「はァ?」

眉間に深いシワを刻んで、高杉はいつもの鋭い視線で坂本を見上げた。
言ってしまって良いものだろうか、まだ踏ん切りがつかない。だけど。

「わしは、高杉が好きじゃ」
こんなチャンスなんて、もうないかもしれないという、思いの方が強かった。

「それは、どういう意味の『好き』なんだよ?」
賢い、高杉らしい応えだと思った。そう、確かに『好き』という感情には、いろいろと種類がある。

「恋愛感情の、『好き』じゃよ」
「馬鹿かテメェ、俺は男だ」
途端に険しい顔つきで、怒鳴り出す高杉。

「わかっとる。それでも、綺麗じゃと思っちょる」
一度、口に出してしまったら、もう止まらなかった。

「なんだよ、それは結局、俺の顔が好きってことなんだろ?」
「違う」
ああウンザリだ、そんな表情で言い放つ高杉は、起き上がって背中を向け、資料室の外に広がる空を見上げていた。

「じゃあ聞くけど、お前は俺の、何を知ってるって言うんだよ?」
ほーら、どうせ教師なんて、何にも知らないんだろう?と、そんな目で挑発的に振り返る高杉。

『昔はあんなんじゃなかったんだ』と言っていた桂の声が聞こえたような気がした。だったら、高杉をこんなに捻くれさせてしまったのは一体誰なのだと、正体も知らぬ誰かを殴ってやりたい、そんな衝動に駆られる。

「実は、けっこう、いろいろ知っとるんじゃよ」
「は?」

言いたくはないことだったけれど。坂本は、銀時と飲みに行ったあの後も、ちょくちょく1人で、あの街に出掛けていた。

「マドマーゼル西郷殿を、知っとるじゃろ、杉君?」
「…っ!!」
高杉の両瞳が大きく開き、信じられないものを見るように、唖然と坂本を見つめていた。

「…っ、知ってるなら、さっさと停学にでもなんでもしろよ!」
ぷいと、また背中を向けてしまう高杉。しかし、今度は先程とは違って、俯いて、小さく肩を震わせている。
絶対に傷つけることはわかっていた。だから、本当は、言いたくなかったのだけれど。

「高杉…」
そんな姿を見て、放っておけるはずなんてなくて、後ろからそっと、高杉の身体を抱きしめた。

(なんて細くてちんまい身体しとるんじゃろ)
「高杉、さっき言ったことは、わししか知らん。わしは、誰にも言うつもりはないきに」
知ってしまったのは、本当の本当に偶然だった。

「だから、高杉は停学にもならん」
「なんでだよ…っ?…なんで、お前そんな、俺だけそんな扱いなんだよ?」

高杉の声は、小さく震えていて。泣かせてしまったことを、どうしようもなく後悔した。今更遅いのだけれど、そもそもこんな風に泣かせたくて、自分はここに来たのではないはずだ。

「ここだけの話にしてくれるかの?」
無言を、同意と受け取って。今から自分は、真っ直ぐできれいなこの子に大人の嘘をつく。

「わしも、高校の時から行っとったんじゃ」
嘘。本当は、初めてあの街のことを知ったのは大学に入ってから。行ったのも大学生の時。

ぷっと、腕の中の高杉が、小さく吹き出した。

「なんだよ、ソレ」
「わしも、停学になったことはないからのう、高杉を停学にすることなんかできんよ」

そもそも、停学なんかにしてしまったら、毎日顔を見ることができないじゃないか、とは、まだ言わないけれど。そっちが本音。

「アンタって、すげえ自分本位の考え方すんのな。バレた時、知らねェからな」
坂本先生は、知ってて見て見ぬフリしてました、なんて。そういうのは教育委員会とかがうるさいんじゃないのか?

「大丈夫じゃよ」
でも、坂本の口調は自信たっぷりで。

「ああ、そうか、俺に何かあって、校長にバレた時は、どうせアンタも被害者面して、『知りませんでした』って言うんだよな?」
「高杉…、なんでそんなこと言うんじゃ?」
坂本は、高杉の肩を抱く腕の力を強めた。

「せんせーなんて、信用してねェもん」
「わしのことも信用してくれんがか?」
やっぱりまだ無理なのかなぁと、哀しくなる。

「だって、お前も所詮先生だろ」
ここまで捻くれてしまった高杉の心を、開かせるのは、本当に、並大抵の根性では無理なのだと、改めて思い知った気分だ。大人しく、腕の中に収まってくれていることで、だいぶ近づけたのではないかと、思ったのだが。

「わしが、高杉に好きだと言っとる時は、自分が教師で、高杉が生徒ちゅーことは忘れとるよ」
「忘れんなよ、馬ァ鹿」

高杉の手が、坂本の腕を掴み、せっかく抱きしめていたのに引き離された。坂本の腕に手を乗せたまま、顔だけを向けた高杉は、
「俺、眠ィから。昼くらいまで寝させて」
上目づかいでそう言うなりソファに横になる。

「た…高杉…っ」
今の顔は、その上目づかいは反則ぜよ。おもいきり、胸がドキリとしてしまった。

「んだよ?何赤くなってんだよ、気持ち悪ィな、せんせ」
だから、好きだって、言っているのに。赤くなるくらい当然じゃないか。なのにこの反応は、もしかしたら全然本気にされてないのかもしれない。いっそ、このうるさい心臓の音が、彼にも聞こえてくれればいいのに、と思った。

「なぁ、高杉、お昼、一緒に食べんか?」
ダメ元で言ってみた。

「なんだよ、奢ってくれんのか?」
チラリと片目だけを開けてこっちを見る高杉。

「昼ご飯くらいならかまわんよ。…じゃあ、昼までここにおるんかの?」
「そーする。眠ィから」
高杉はまた、瞳を閉じて、そのうちに眠りについたようだった。

寝顔が見たい!という衝動にはかられたが、うるさく鳴り出したチャイムのせいで、残念ながらほとんど見ることができなかった。

***

銀時と飲みに行って、衝撃の場面を目撃してしまってから、どうしても気になって気になって、何度かこっそり、1人で飲みに行ってみたりした。

そこで、再びきれいな彼を目撃したのだが、やっぱり、知らない男と一緒で、声をかけることができなかった。
あれは、何回目かの目撃の夜だ。

「ありがとうございまァす」
低いが甘ったるく作られた声には聞き覚えがあって。そうして、知った店から出て来たのは、今日も、違う男に連れられた教え子。

「…!!」
坂本は走りだし、彼らが今までいたと思われる店に入った。ここに来るのは久しぶりだ。

「アラ、坂本っちゃんじゃない、アンタ久しぶりねぇ」
坂本っちゃん、は止めて欲しいんだけど、と思いながら、とりあえずカウンターに腰を降ろした。店内にいる客は3組だけ。

「久しぶりじゃの。よぅ覚えとってくれたの、西郷どの」
「覚えてるわよ、あんたのその喋り方でそんなモジャ毛、忘れないわよ」
たぶん、教師になってからは一度も訪れていないはずなのに。

「西郷殿、今、ここに、赤い髪でちんまい、可愛い子が来とったじゃろ?」
適当に水割りを頼んで、早速本題を切り出した。

「アラ、何よ、アンタも杉君狙いなワケ?」
そうなんだ、高杉はこの街では、そういう名前で呼ばれているのかと知った。

「いや、狙っとると言うか、そういうわけでもあるような、ないような感じなんじゃけど」
「そう言や、アンタも若専だったわね」
「その言い方は間違っとるんじゃなかか?だいたい、西郷殿が知っとる相手の時は、わしもまだ21、2じゃったじゃろー」
同年代と付き合うのを若専とは言わないだろう。

「でもアンタ年下好きよね」
「それは否定せんよ」
酒を口に運びながらでは、どうしても話がどんどん逸れて行ってしまう。これでは、せっかく来た意味がない。

「西郷殿、ここだけの話にしてくれるかの?」
言いたくはなかったが、ここはもう、ハッキリ言ってしまうしかないだろう。西郷なら大丈夫だと、思っていたけれど、それでも一応の確認を取った。

「アラ、お水は口堅いのよ」
いつになく、真面目な顔つきになった坂本のいつもとは違う様子に、西郷も気付いたようだ。

「あの可愛いのは、わしの生徒なんじゃ」
普段大きい声を、限界まで潜め、西郷にだけ聞こえる声で告げた。

「坂本っちゃんって、高校の先生になったんだったかしら?」
西郷も、声を潜めて坂本の前に身を乗り出す。

「そうじゃよ。あの杉君は、ウチのクラスの生徒なんじゃ。何か知っとったら、教えて欲しいんじゃけど」
「…あの子、この街に来るようになってから、2年にはなると思うわよ」
「えっ…」
それはつまり、中学生の時からと言うことで。

「なんちゅーマセガキじゃ」
呟いた坂本の声に反応して西郷も笑いだす。

「まぁね〜、ずいぶん若すぎると思うだろうけど、この街も最近多いのよ、若い子」
加えてあの美貌で、けっこうこの街では知る人ぞ知る有名な存在らしい。

それから西郷は、高杉がしばらく若専の店で働いていたことや、店員同士のトラブルで辞めたこと、それでもこの街には2〜3日に1回は顔を出すことを教えてくれた。

「あの子、寂しいんじゃないかしら」
「西郷殿」
「家に帰っても、誰もいないんでしょう?知ってる?」

それはさすがに、担任なので知っていた。両親は共働きで、それぞれが、かなり名前の通った会社で、それぞれ重要な役職について働いているらしい。

「坂本っちゃん、あんた、担任として心配で来ただけじゃないんでしょう」
「…なんのことじゃ?」
2杯目の水割りを作りながら、西郷は目を光らせた。

「坂本っちゃん、杉君のこと、好きなんでしょ」
オカマの目はごまかせないわよ、と西郷は笑う。

「全く、西郷殿にはかなわんきに」

2杯目の水割りを飲みながら坂本は、西郷の話を頭の中で繰り返す。なんとかして高杉の寂しさを、埋めてやれないものかと、教師としてでもいい、1人の人間坂本辰馬としてでもいい、だから、自分にできることは何かないのかと、1人考えた。


続く



なんと高杉君は両目なんですねっ、高階さんっ(爆)なんだか、坂本先生だけが一方的に晋ちゃんのこと好きなのって、書きにくいっιでも、ウチの高杉君はそうそう簡単には落ちないみたいですよ(苦笑)

そしてヤバイ、オカマ言葉楽しすぎる…。
楽しすぎてキャラぶっ壊れた上に、ほとんど会話のみ…






















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