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初めて見た時から、なんて綺麗な子なんだろうと思っていた。

高く青い空の向こうに見つけた太陽 04


そうして、その子が自分のクラスの生徒であることを、誰かに感謝したくなった。

「坂本、お前最近溜息つきすぎ」
職員室で、中間テストの問題作りをしていたら、隣の席の銀八に声をかけられた。

「おんしは気楽そうでええのぅ」
今回はテスト問題は違う教師の担当になっている銀八は教科書を開いているようで、実はその下に隠したジャンプを読んでいた。今は放課後だから、別に悪いことではないと思うのだが、それでも、一応はまだ勤務時間である。

「気楽じゃないよ〜!なんで俺のクラスはあんなに問題児ばっかりなんだろーねェ」
しかし、その問題児達を相手に、銀八はむしろ楽しんでいるような素振りさえ見せるのだ。

「それはこっちの方が深刻じゃ」
何しろ、ほとんどマトモに授業に出ない生徒が3人もいるのだから。

「何お前、それで悩んでんの?」
「いんや、そうでもないんじゃけど」

自分は、未だ高杉晋助が笑ったところを見たことがない。つまらなそうに授業を受けている姿だけで、あれだけ綺麗なのだ、笑ったら一体、どれほど美しいのだろうと思わずにはいられないのだ。

何度か、彼らがよくサボっている屋上に、こっそり足を踏み入れてはみたが、同じ問題児でも、きゃいきゃい騒いでいつも笑っている河上や来島とは対照的に、高杉は笑ってはいなかった。

3人でいるのではなく、2人と1人に見えなくもなかった。

「坂本ォ、お前テストどこまでできた?」
「んー?7割方」
一番最初の中間テストなんて、範囲が限られている分、問題を作るのはそう難しいものではない。

「だったらさ、ぱぁーっと飲みに行かね?愚痴くらい聞いてやるからよ」
銀八の申し出はありがたかったが、ちゃっかりその後に『お前の奢りでな』という文句が必ずつく。

「今はそんな気分じゃないきに。また今度にしよ」
銀八が、重ねて持っていたジャンプと教科書を机に置いて、だらしなく組んでいた足も降ろして坂本の方に身体ごと向き直った。

「おい、辰馬」
「なんじゃ?」

銀八は、学校ではまず呼ぶことのない、坂本の下の名前を、真剣な表情で呼んだ。

「銀さんとお前って、けっこう長い付き合いだよね」
「そう…じゃな」

銀八と坂本は、大学の時から同期だった。学部は違えど、大学に通っていた時から、よく一緒に飲みに行き、2人仲良く教育実習に来た大学の付属高校に、2人仲良く採用されて、今に至る。そう考えると、けっこうな年数一緒にいるものだ。

「辰馬が俺の飲みの誘いを断る時ってのは、好きな奴ができて悩んでる時って相場が決まってるんですけど」
「そう…じゃったかの?」
更に銀八は、椅子を寄せて近づき、小声で続けた。

「しかも、お前は、相手がオトコの時に限って、異様に溜息の数が増える」
「!!…銀八、ここは職員室じゃ」
「だから、こんな小声でしゃべってんでしょーが」

他の先生達の間では、ごくごく一般的な女好きだと思われている坂本、というか2人である。
しかし、実際は、気に入ってしまえば性別なんて関係ないというのがこの2人であって、大学の頃はよく、2人で堂山を飲み歩いたものだった。ただし、どうでもいい話だが、2人の好みは、似ているようで微妙に違っていて、喧嘩になったことは一度もない。

「しかし、わしはまだ、自分がどう思っちょるかもわからんのじゃ」
ただただ、笑った顔が、見てみたいと、それだけは強く思う。
せっかく貸してやると約束した、社会科資料室の鍵も、まだ一度も借りに来たことはない高杉。

「まー、悩んでるのは間違いないんでしょ?そんなわけでェ、飲みに行きませんか?坂本先生」
もちろんお前の奢りでね、と笑って銀八は椅子を元に戻し、思い切り背伸びをした。

「まぁーったく、自分が飲みたいだけなんじゃろ」
苦笑しながらも、坂本は銀八の誘いに乗ることにした。

***

軽く居酒屋で腹ごしらえをしながら、他愛もない話しをする。銀時も、まだ本題には触れてこない。
なんでもないことのように話すのだが、聞けば聞く程、銀八のクラスも相当な問題クラスである。

どーにもこーにも、手に負えない生徒がたった3人しかいないウチのクラスは、まだ平和な方なんだろうかと、真剣に悩んでしまう程に。

「辰馬ァ、次、どこ行く?」
お腹もふくれたところで、銀時が煙草をふかしながら尋ねてきた。

「そうじゃの〜」
別にこのまま、居酒屋で安い酒を飲んでいてもいいような気分でもある。

「Aにする?Pにする?それとも久々Eなんて」
しかし、銀時は、そっち方面に繰り出す気満々のようだ。

「今日のEはSMナイトじゃよ」
はぁ、と、今日何回目になるかわからない溜息をつきながら返した。

「うっそ、マジで?お前なんで知ってんの?」
「さっきネットで調べたんじゃ」

携帯を開きながら坂本が答えた。坂本はSMにはあまり興味がなく、銀時も、相当乗っている時か酔っている時くらいしか興味を示さない。そこまで、好きなわけでもないのだ。

「今更キャバクラって気分でもねェしなァ」
「わしはかまわんが」
「俺、まだお前の愚痴聞いてやってねェだろうがよォ」

全く、坂本辰馬という人間は。その笑顔で、なにもかもを包み隠してしまうだけ、タチが悪いのだ。悩み事や心配事が胸のうちにあったとしても、誰にもわからないように隠してしまうから。

それは、職場では好評だったとしても、学校を出た外でも付き合いのある銀時にとっては、ひどくやっかいなもので。

「わかったきに。無難にAに決まりじゃ」
「まぁ、そうだなぁ」

辰馬が上げた店の名前は、普通に話しをしながら飲める場所であって、俺達が、ちょくちょく行っている店で。
居酒屋を出て、東通りのアーケード街を左に曲がる。この先はもう、いわゆるそういう街で。

たぶん、知らない人は全く知らずに、普通に通過しているところなんだろうけど、ビル1つそういう店なんていうのも存在したりする。

俺達2人、こうやって男2人で歩いてて。あー、なんか、このモジャとカップルだなんて思われたら嫌だなぁ。
そんなことを思いながら、今時24時間稼動している自販機で予備の煙草を買った。

煙草を吸わない辰馬が黙って待っててくれて、振り返ると、すぐ目の前のビルのエレベーターから、えらい不釣り合いなカップルが降りてきた。

(なんだよあのエロ親父ィ、若専ですかコノヤロー!ってか、ずいぶん上玉連れちゃって。どうせ金にモノ言わせたんだろ、あー悔しいなぁ……アレ?)

「おい、辰馬」
銀時は、いつもと違って全然元気のない坂本を呼んだ。

別人みたいに、下ばかり向いていた坂本が、ようやく顔を上げ、銀時が食い入るように見ている方向に目をやった。

「…!?」
「あれってさァ、お前のクラスの問題児君じゃないの?」

ちょっと危ない感じで、良く言えば割腹のいい親父と腕を組んで歩く小柄な少年。間違いない、あんなに見事に染まった赤い髪、そうそう見間違えるものではない。

「た…たかすぎっ…」
「待てって辰馬!!」
追い掛けようとした坂本の腕を引いて引き止めた。

「銀時、なんでじゃ?」
「待てって!あの親父、なんか危ない感じしねェ?」
そう、言うなれば、なんだかマトモな仕事はしてないような。

「でも、銀時!」
放ってはおけないと、走って追い掛け始めた辰馬を銀時も追い掛ける。しかし、そんな2人の目の前で、親父と少年は、建物の中へと消えてしまった。

「どーするよ?辰馬。よりによって林檎さんですよ」
いつ出てくるのかが全く読めない場所に入られてしまった。1〜2時間で済むかもしれないし、もしかしたら、朝までコースかもしれない。

「はぁー」
盛大な溜息をついて、辰馬が道の端に座り込んだ。
仕方なく隣に並んで銀時も座る。

「銀時ィ、さっき、わしはまだ、自分の気持ちがわからんと言うたじゃろ?」
いつのさっきだとは思ったが、たぶん職員室の時だ。

「じゃけど、今はっきりわかったんじゃ。わしは、まことに、好きになってしまったみたいじゃ」
「おう、それに気付いたって、スゲー進歩じゃん?…って、なんで」
…なんで、なんでこのタイミングでそれに気付いちゃうワケ?
がっくりうなだれる辰馬を、恐る恐る横から覗き込む。

「なァ、辰馬、お前って、もしかして」
『林檎の家』の名前がついた建物を仰ぎ見ながら辰馬が言った。

「そうじゃ、わしは高杉が好きなんじゃ」


続く



なんてところで終わるのよ高階さんっ(汗)
変なトコばっかりリアルでごめんなさい

























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