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もう5月だって言うのに、未だ匙を投げない、諦めの悪い教師がいる。

高く青い空の向こうに見つけた太陽 03


面倒くさいことに、それが担任だったりするんだな、俺達の場合。

「どこ行くんじゃ?」
いつも通り、授業をサボろうとしたら、なんでか廊下で捕まった担任に腕を掴まれた。授業中の時間だってのに、何やってんだコイツ。

「見りゃわかんだろ?離せよ」
「暇なら手伝ってくれんかのぅ」
「ハァ?」
どういう神経だよ、この先公!

「晋助、先行くでござる」
「おいっ!こら待て万斉!」

自分まで捕まるのはごめんだと万斉の奴はさっさとどこかへ消えちまった。これからサボることは決まっていたけど、どこでサボるかまでは決めてなかったから、どこにいったかはわからない。俺達は、四六時中べったりつるんでいるなんて関係じゃないから、当たり前だ。

たぶん、俺と万斉が逆の立場だったら俺も、さっさと逃げただろう。

「手伝うって、何をだよ?」
思い切り不機嫌をあらわにした顔で、俺は長身の担任、坂本を見上げた、と言うよりは睨みつけた。

「そんな怖い顔せんでもいいじゃろ〜?せっかくの綺麗な顔が台なしじゃ」
「はァ?」

いつも、ニコニコというか、ヘラヘラ笑っている坂本。どうせ大人なんて、その笑顔の裏で何を考えているかわかったモノじゃないってことを、俺はよく知っている。知っているから騙されない。

「アンタ、そうやって、いつも女口説いてんだ」
「何を言っとるんじゃ、正直に思ったことを言っただけじゃよ」

やっぱりそうなんだろうな、としか思えなかった。坂田っていうやる気のない国語教師が、言っていたのを聞いたことがある。『坂本の奴がね、女好きもいい加減にしろよ、昨日また飲みに行ってさぁ』と。

『そんなわけで先生頭痛いから自習しといて』と続いたので、さっさと教室から出てやったが。

「こっち来てくんろ〜」

ずっと、掴まれたままの腕を離してもらえなくて、仕方なく俺は坂本についていった。行った先は社会科資料室。ぶっちゃけ、埃くさいし汚いし、なんなんだよココ!って感じの部屋で、俺は坂本にでっかい世界地図を持たされた。

「何コレ?」
「次の授業で使うんじゃよ」
「んなもんテメェ1人でやれよ!」

この、狭い資料室には2人きりだったことを思い出して、俺は思い切り怒鳴り付けてやった。持たされた地図を壁に立て掛けて、なぜか部屋の一番奥に置いてあった場違いなソファにゴロンと足を投げ出して横になる。

「高杉は」
脚立を使ってまだ棚の上の方を漁っていた坂本が降りてきて、俺の目の前にしゃがみ込んだ。

「素直なエェ子じゃのう」
何を言ってるんだコイツは。この、反抗的な態度のどこが『いい子』なんだ?

「テメェ、頭おかしいだろ」
ジロリと見上げたら、坂本の大きな手で、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。

俺は、その行為に、一瞬、坂本が教師だってことを忘れてしまった。
そんなことされたの、何年ぶりだか、もうわからない、覚えていない。

「嫌なことを嫌だと素直に言える子はエェ子じゃよ」
また、あの、胡散臭い笑顔が目の前にある。

「高杉は、どうしてそんなに大人が嫌いなんじゃ?」
立ち上がり、近くにあった椅子に座ると坂本が聞いてきた。

「信用できねェから」
なぜだか、まだぼうっとした意識の中で、俺は正直に答えてしまっている。

「両親も信用できないがか?」
「だってあの人ら、俺より仕事が大事だし」

俺の両親は、それぞれが好きな仕事をやっていて、2人共遅くまで帰ってこないなんてザラにあって。でも、たまに会うと、仕事に真剣なんだなって思ってしまうから、結局俺は何にも言えなくて。

誰も待ってない1人の家が嫌で本当は寂しくて、俺は夜の街へ遊びに出ることを覚えた。

夜の街には、万斉やまた子達とはまた違う、顔見知りになった仲間がいて、そこで俺は、なんとなく日々、気を紛らわせていた。

「ほうがか。じゃあ、わしのことは、信じてみてくれんかのう?」
「馬鹿言うな」
「即答じゃの」

そうだ、コイツはたかが教師じゃねぇか!俺は、何を油断して、こんなことしゃべってんだ?
さっきので、気が抜けてしまった自分自信を怨んだがもう遅い。

「高杉」
「んだよ」
坂本の顔が笑っていなかった。

「おんしはわしの大事な生徒じゃ。わしは生徒を裏切るようなことは絶対しとうない」
「ハッ、どうだかな」
教師ってやつはさ、絶対1回は言うんだよな、この類の言葉。

だけど、どうせすぐに、手に負えなくなって、不良だなんだって、決め付けて。だって、その方が絶対楽なんだ。特にここは高校だろう?何か問題が発覚すれば、どうせすぐ停学処分とかになるに決まってる。その後はまた、放ったらかしにされるに決まってる。

たった1人の生徒に構っていられる程、教師ってのは暇な職業ではないのだから。

「俺は、これ以上お前に話すことなんて何もない」
ゴロンと寝返りを打って、俯せになると、自分の腕に顔を押し付けた。埃くさい部屋のソファは、やっぱり埃くさかったけど、それでもいつも寝ている屋上の、硬いコンクリートよりはマシだった。

「わしは、まだまだ話したいことがいっぱいじゃよ、高杉」
「懲りねェ野郎だな」
これだから、こんな奴が担任だから困る。

「高杉、何かあったら、何でもいいから言ってきぃ。ホレ、わしの携帯番号じゃ」
坂本に渡されたのは名刺。へぇ、たかが教師でも、こんなのって作って持ってるもんなんだ、と思った。

「一生かけることなんてねェと思うけどさ」
俺は受け取った名刺を、制服の胸ポケットに入れて、そのまますぐに存在そのものを忘れた。

「雨の日ここでサボってていい?」
何でも言ってこいって言うんだ、早速言ってやった。多分拒否られるであろうことを。きっと今頃、そんなことを言った自分を後悔してるに決まってるんだ、教師なんてそんなもんだ。

「う〜ん」
ほら、やっぱり、何て丸め込もうか悩んでやがる。

「雨の日だけじゃよ。でも、合鍵を渡すわけにはいかんから、その時はわしに、鍵を借りに来てくれんかの?」
返って来た答が、予想と全然違ってて。

「あんたさ、マジで言ってんの?」
「あ、でも、河上や来島らと騒がれると困るのう。高杉1人で、ここで寝てるだけって言うなら構わんよ。どうせ、ここの資料室にモノを置いてるのはわしだけじゃあ」

笑いながら応える坂本は、どうやら本気らしかった。
「俺だけ特別扱いかよ」

何でそんなことになるのかわからず、俺は不審の目を向けた。

「あいつらとはまだ全然しゃべっとらんからのう。わしが話しかけてもすぐに逃げて行くんじゃ」
ああ、そうだろうな、っていうか、それが普通だろうな。俺だって、無理矢理腕を掴まれたんでなければ今日は逃げ出していたさ。

「何でそんなにサボりたいのか、話も聞かんうちから、そんなことはできんからのぅ」
「そうなのか?」
何でそんなにサボりたいのかなんて、理由はないんだけど、っていうか。

「そんなの、俺にも聞いてねェじゃん」
本当に胡散臭くて変な奴だなと、改めて思いながら俺は上半身を起こしてまじまじと坂本を見た。

「高杉は」
標準よりはるかにデカイ身体、デカイ声。高知だかどっかの方言に好き勝手ハネた髪の毛。そのくせ、スーツの選び方だけは上手いような気がする。なんだろう、外資系の営業職のサラリーマンと言っても通じるんじゃなかろうか。奴の、スーツの着こなしは、教師のそれっぽくはない。

「高杉は、大人に反抗したいんじゃろ?」
観察に勤しんでいたら、突然そんなことを言われた。
「本当は、寂しくて、だからサボって目立ちたいんじゃろ」
「馬鹿言ってんじゃねェ!」
悔しい。悔しいけど、半分くらいは本当だ。見抜かれた。たったこれだけの時間の、これだけの会話の中で。
いつも側にいたはずの誰かに離れられるのが恐かった。だったら最初から1人でいいと思うようになっていた。

正直、高校になってから、よく一緒にいる万斉達にも、俺は完全には心を許したつもりなんてない。だから、一緒にはいても、あいつらは意外と俺のことは知らないはずで。俺も、必要以上のことは聞かなかった。

「…帰る」
「帰るって、家にがか?」
「悪ィかよ」
俺はソファから立ち上がって資料室を出て行こうとした。
もちろん、家になんて帰るわけじゃないんだけれども。

「あー、その前に、その地図職員室まで運んでくれんかのう?」
「んなもんテメェでやれ!」

普通の教師なら引き止めるとかするんじゃないのか?とか思いながら、俺はそのまま資料室を出て階段を降りた。
鞄は教室に置きっぱなしだったけど、財布も携帯もポケットに入ってるから、どうでもいいか。


続く



高杉君に散々な言われようの坂本先生(笑)頑張れ!負けるな!!先生の包容力が晋ちゃんを救うのだっ(爆)←高階が一番馬鹿です






















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