□title list□
 ※水色部分にカーソルを合わせると
 メニューが出ます

なんにも見えねぇからこそ、わかるモンってのもある。

strawberry


例えばそう、こんな時間に煙管をくわえながら、ふらりと部屋に入ってきたこの人が、今夜はずいぶん機嫌がいいらしいということ。

「まァ、付き合えや」

俺にも酒をついだ俺達の頭、高杉さんは、窓際に座り込んで、静かに酒を飲む。
きっと、その窓から今日も、空を見上げているんだろう。

(歯痒いねィ)

今、この人の側にいるのは俺達だってのに、この人が見ているものは空ばかり。『付き合え』なんて言っといて、アンタは心ここにあらず、なんだろう?
そう思いながら、勧められた酒を黙って飲んでいたら、不意に声をかけられた。

「お前、誕生日なんだってな」
「高杉さん?」

そんなもの、自分だって忘れていた。そして、この人が、意外と、他人のそういうことにはマメだということも。

「そんなシケたツラしてねぇで、何か面白い話でも聞かせろや」

何があったんだか知らないが、今日のこの人は本当に機嫌がいい。

「面白い話なんて、ありませんよ」

最近目立った行動は起こせていない。江戸の町は、たぶん、平和だ。

「つまんねェ奴だな。…テメェ、出身、どこだ?」

高杉さんの飲むペースが早い。

「土佐、です」
「………」

高杉さんが息を飲んで黙り込んだのがわかった。だから言いたくなかったんだ。今まで言わずに来たんだ。

「ふうん、その割には、しゃべり方普通だな、お前」
「出てきてだいぶ経つからねェ」

比べないでほしいと思った。この人を、過去に縛り付ける1人の男。この人を置いて、宇宙に行ってしまった男。
だけど、もしも高杉さんが、過去などすっぱり忘れて、全く新しい人生を歩めた人だったのなら、今俺達は、ここにはいないんだと、複雑な思いが沸き上がるのも事実。

「昔話でも、聞かせろや」
「残念だけど」

俺は、空になった盃を床の上に置いた。

「アンタが知りたがってる人のことは何にも知らないよ。ただ、同郷だってだけで、アンタと、あの桂小太郎みたいな関係なわけじゃないからね」

それは、ほんのちょっとだけ、嘘が含まれてはいたけれど。

「俺は何にも言ってねェよ」

ああ、そうだな、口には出してないんだよな。だけど、明らかにがっかりしたってのが、俺にはわかっちまうんですよね。
本当は、隣町の悪ガキで有名だった、坂本辰馬のことを、知らないわけじゃない。かなり名士の家だったわけだし。たぶん、幼い頃、会ったこともある。
だけど、俺はアンタにその話はしたくないんでね。
俺より一瞬遅れて、高杉さんが顔を上げたのがわかった。

「晋助様っ!!」

バタバタと足音を立てて駆け込んできたのは来島だ。武市も一緒か。足音だけで、誰が来たのかわかる分、反応は俺の方が早かった。

「水臭いっス!言ってくれれば、あたし達もお祝いしたっス!」

ずかずかと遠慮ナシに人の部屋に入ってきた来島。

「似蔵、誕生日おめでとうッス」

こんなにもあっさりと、言われるとは思わなかったから、なんと応えたらいいのかわからなかった。来島とは、普段から何かと、いがみ合うことの方が多いからな。
br 「急だったから、何も用意していないので、せめて食事でも、と思ったんですけどね」

武市が運ばせたのは、たぶん、普段の数倍は豪華な夕食。

「まァ、いいんじゃね?」

ふう、と煙を吐き出した高杉さんが、たぶん微笑んでいる。

「晋助様ァ〜、アタシの誕生日も覚えててくれてるッスか?」
「知らねェな」
「晋助様ァ!」

来島と武市が来たら、なんだか急に騒がしくなった。それでもいいか。さっきまでの、俺の郷里の話はどこかへ行ってしまったから。

「来島…携帯貸せ」
「どうするんスか?」
「万斉も呼んでやれ」
「わかったっス!」

また子が携帯を開き、電話をかけはじめた。話の途中で、高杉がその携帯を奪い取る。

「万斉、ケーキ買ってこい」
『晋助?拙者まだレコーディング…』
「わかったな」

それだけ言って、高杉は無理矢理通話を切ってしまう。
携帯をまた子に返しながら、高杉は笑った。

「これで誕生日らしくはなるんじゃねェの?」

万斉には悪い気がするけれど、たまにはこんな夜があるのも、悪くないか。

***

仕事中に無茶な電話を受けた万斉は悩んでいた。
また子からの電話だと、喜んで取ってしまった自分が悪いのだろうか。

「ケーキって何でござるか、ケーキって」

クリスマスにはまだ早い。だいたい、晋助は甘いものは食べないはずだ。
さんざん悩んだところで、ようやく1つの答にたどり着く。

「すまんが拙者、少し抜けるでござる」
「つんぽさん?」

突然の申し出に、スタッフの皆が慌てはじめた。

「ちょっと急用でな。遅くとも明日の朝には戻るでこざる。心配はいらぬよ」

万斉は、愛用の三味線を背に担ぎ、急ぎ足でスタジオを後にした。

***

最近よく使っている隠れ家の似蔵の部屋を訪れると、そこはもう宴会場と化していた。そこそこ、いい料理が並んでいただろうに、もはや面影すら残っていない。
何も食べずに急いで来たのになァと、万斉は嘆いた。

「ケーキ買ってきたでござるよ」
「ご苦労さん」
部屋の一番奥に座っていた高杉と似蔵の前に、万斉はケーキを置く。

「まずは似蔵からだな」

高杉自ら器用にケーキを切り分けて、騒ぎながら飲みながらみんなで食べた。
甘いものが苦手な高杉のケーキは、人より少し、小さめだ。
(そのために自分で切ったんでござるか)
何の気なしに、晋助の隣に座ったら、酔ったまた子が『席を代われ』と騒ぎ出して、『せめてケーキ食べてから』と応えたら言い合いになってしまった。それを見ていた晋助が苦笑いしながら言った。

「万斉、なんか歌えや」

どうやら、今日はずいぶんと、晋助の機嫌がいいらしい。ほとんど変わらないから、わからないが、相当酒も入っているのだろう。

「わかったでござる。…じゃあ、せっかくこんな時期だから」

クリスマスソングでも歌わせてもらおうか。
定番のクリスマスソングを何曲か歌う。あれだけさっきまで、言い合いをしていたのに、また子なんかは一緒になって歌っていた。
今日はクリスマスじゃなくて似蔵の誕生日だったはずだが、雰囲気が変わってきてしまった。しかし、『ハッピーバースデー』なんて、とっくに歌い終わったというし、酒の席だから、いいかもしれない。

「次のこれは多分、また子は知らない曲でござるよ」

恋人がサンタクロース
背の高いサンタクロース
雪の町から来た

やはり、古い曲だから知らなかったのか、黙って聞いていたまた子が、歌い終わった瞬間、万斉を押し退けて晋助にくっついた。

「晋助様っ!明後日の8時に待ってるっスぅ〜」
「馬鹿かテメェっ!」

遠い目で、外を見ていた晋助は、急に現実に引き戻されたような顔をして焦っていた。
あーあ、どうしてまた子はそっちに行ってしまうんだろうか。相手が晋助では、仕方ないと言えば仕方ないのだけれど。

「また子。曲の影響を受けるのはいいでござるが少なくとも、晋助は背は高く…」
「何か言ったか万斉」
「なんでもないでごさる…」

今にも刀を抜きそうな勢いの晋助に睨まれて、万斉は黙った。でも今、この場に男が4人いて、晋助が一番小さい(というか、女のまた子とあまり変わらない)のは事実で。
(たぶん言ったら殺されるからやめておこう)

「とにかく」

万斉は、無理矢理その場をまとめることにした。

「誕生日おめでとう、似蔵」
「おめでとう」

けっこう酔っている風な武市も続いた。
「悪いねェ」

そのまま宴会は、気付けば深夜にまで及んでいた。

***

「クリスマス…ねェ」
ようやく部屋に戻った高杉は、まだ明るくならない空を1人、見つめていた。

「サンタだかなんだか知らねェが、来るわけねェだろ、そんなもん」

万斉が歌った歌が、頭をぐるぐる回って離れない。

「そんなに町中浮かれてるってンなら、ひと暴れしてやろうか」

血のクリスマス、なんてのも、いいんじゃねェ?


To be continued…



ちゃんと似蔵出てたの前半だけでごめんなさい(___)
似蔵おめでとう★彡祝う気だけはあります!本当です!
…しかも、「END」じゃないってなによ高階さんっ!!
(坂)←高←似で始まって、高←また←万って…。まさに晋ちゃんは姫ネ…
タイトルは、ケーキから連想しただけよ。赤いし。(赤=クリスマスと最後の晋ちゃんの血)

(06/12/23)






















No reproduction or republication without written permission.