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「来島の機嫌が悪いんだけど、高杉さん、アンタ何か知らないかィ?」

肌寒さを感じながら、縁側でぼーっとしていたら、似蔵がそう、声をかけてきた。

「なんだよ、お前らいつもいがみ合ってんじゃねェか」

女装で初詣に連れ回された翌日の夜、辰馬が帰ってしまってから、一週間が過ぎていた。そろそろ気を取り直さないといけないのはわかっているが、どうにもこうにも、身体が言うことをきかない。

「今日はそれだけじゃない感じでね。隊士たちがみんな怯えてるよ」
「ァあ」

どうせ夕方になったら治るから放っておけ、と言った俺の言葉に似蔵は不思議そうだ。
お前も夕方になればわかるさ、そう言って、俺は縁側を後にした。

ma chérie


屋敷の台所に行ってみると、なるほど、相当暴れて行ったらしい様子が見てとれる。隊士たちが、後片付けに追われていた。

「総督!」
「すいません、散らかってて」
「構わねェよ、来島だろ?」

そこらじゅうに調理道具がひっくり返っている、もはや惨劇と言っていい、有り得ない状態の台所。

「夕方までに片付きゃ問題ねェからよォ」

お前らも、今夜はいいモン食わせてやるよ、と、それだけを言って去っていく上機嫌な高杉に、隊士達は片付けの手も止めて、ポカンと総督を見送った。

昨日の午後の昼は もう少し夢の中
星降る夜を待ち 願いをかけよう

***

来島の機嫌が治ると予告した夕方。すっかり屋敷の中が静かになったのを感じながら、俺は部屋で、1人拗ねているであろう来島の元を訪れた。

「晋助様…?」

いきなりの訪問に驚いた来島だったが、すんなりと俺を部屋に招き入れた。でも、俺はそこに座ることなく切り出した。

「今から出かけるぞ」
「え?今からッスか?」

状況が飲み込めていない来島の手を引いて屋敷から出る。

「晋助様、あの…」

しきりに手を気にした様子の来島。ああそうか、こうやって、手なんか繋いで歩くの初めてだったか?
まァいいさ。これは、俺からのプレゼントだ。
偽名で予約しておいた(実際に探してきて予約したのは武市だが)料亭に入っていく。

「来島、今日はお前が主役だろ?」
「えっ?」

背中を押して、借り切った広間の扉を開かせた。

「来島殿、誕生日おめでとう!」

既に集まっていた隊士達が、いっせいに声を揃えた。

「来島ァ、お前、みんなに忘れられてると思ってたんだろ?」

驚いて、声も出せずにいる来島の手を引いて、いわゆる『お誕生日席』に座らせた。俺はそのすぐ横で、向かいに万斉がいる。

「晋助様、嬉しいッス!!」

今にも抱き着いてきそうな勢いの来島。

「言っとくけど、言い出しっぺは万斉だからな!」

金を出したのも、とまでは言わないが。

「万斉、ありがとう」
「じゃァ、オメェら!待たせたな」

音頭は主役に取らせてやっか。

「乾杯ッス!!」

あとはてんでバラバラに、飲んで喋って食って。それでも、来島は、幹部唯一の女だったから、個人的にプレゼントを持ってくる隊士も多かった。

「テメェら、俺の時も期待していいんだろうなァ?」

そんな隊士達に、いちいち脅しをかけてやるのも、また楽しかった。
来島が一番嬉しそうにしてたのは、万斉が、こっそり渡していた何か(何だか俺からは見えなかった)。
まァ、いいんじゃねェの?

ma chérie
恋人達は理由(わけ)もなく
きっかけも なにもなく
星降る夜を待ち 願いをかけよう
繰り返すこの言葉は祈りの言葉


END



超短い…ごめんよまた子























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