昔隣のおしゃれなお姉さんは
クリスマスの日私に言った
今夜8時になれば
サンタがうちにやってくる
似蔵の誕生日に、万斉が歌った歌が、未だ頭から離れない。
天人が持ち込んだ風習だかなんだか知らねェが、町中そんなに浮かれてる日だってンなら、幕吏達もさぞ、油断してるんだろうなァ。
てめェらは呑気に酒でも飲んでたらいいさ。最期の思い出が、楽しい酒の席なんて、なかなかいいもんなんじゃねェか?
みんなで夜中まで飲んでいて、睡眠不足なのはわかっていたが、さっそく来島に、幕吏が集まってそうな場所を調べさせることにした。まぁ、夕方までに調べてくれればそれでいい。
パーティーとかいうらしいが、やっぱりあいつは女だから、その辺は詳しいな。
来島が戻ってくるまで少し休もうと思って、横になっていたら、本格的に眠ってしまっていたようだ。
寝起きでまだ頭が働かない。寝返りを打とうとしたら、身体が動かなかった。
なんだろう、首のあたりがやけにくすぐったい。誰かいる、ということはなんとか認識したが、それでも目が開けられない。
「んァ…な…んっ」
抵抗もできないうちに、深く唇を塞がれた。されるがままに、唇を吸いあげられ、舌を絡め取られる。ただでさえ意識がはっきりしないというのに、酸素不足でますます頭がぼぅーっとしてきた。
ようやく唇が離された時、やけに部屋の中がうるさくて、そっちを見たけど、ほとんど開かない目のままでは、やっぱり何だかわからなかった。多分来島なんだけど、視界がぼやけて誰だかわからない。
頼んだ調査から帰って来たんかな…?だったら、いい加減起きねェとな。
無理矢理身体を起こそうとしたら、デカイ手に肩を抑えつけられて、また唇を塞がれた。
あ、やばい、気持ちイイ。
目を閉じて、この気持ち良さに、しばらく全身を委ねてみる。
はだけた肌の上を大きな手が這っていって、俺の身体は勝手にピクンと跳ねた。
ってか、どこ触ってんだよコイツ…っ!
「ゃ…やめっ!!」
ようやく重たい瞼を上げると、いるはずのない奴がそこにいた。
***
幕吏のパーティー会場を、いくつか調べて晋助様に報告に向かう。クリスマスにテロなんて、晋助様らしくってすごくイイ。クリスマスの浮かれた空気に赤い血が舞う様。晋助様はきっと、その中で、刀を光らせ返り血を浴びて、ひときわ綺麗なんだろう。
似蔵の誕生日の時に見せた、やわらかく笑う晋助様も好きだけど、そんな目的のために刀を振るう晋助様も素敵だ。
「晋助様、失礼します…!!」
晋助様の部屋の扉を開いたら、布団の上に、誰かが覆い被さっていた。
「お、お前!!何してるッスか!!」
私の怒鳴り声に顔を上げたのは、…口角を上げて不敵に微笑む坂本辰馬。なんでこんなところにいる?
「お前、晋助様に何してるッスか!!」
すぐさま拳銃を抜いて坂本辰馬に突き付けた。
「怖いのぅ。なぁんにもしとらんよ、のぅ、晋」
こいつの、この余裕の笑顔がいつもムカつくんだ。
焦点の合わない瞳で、ぼんやりこっちを見た晋助様は口の端から銀糸を垂らして、荒い息のまま、はだけた胸を隠そうともしなかった。
「…もう、知らないッス!!」
たまらなくなって、私は晋助様の部屋から飛び出した。
***
「おまっ、何やってんだ!!」
急激に脳内が覚醒していく。
「しようって言ったら、晋が『うん』って言ったんじゃよ」
へらへら笑いながら、坂本は高杉の首筋に口付けを落とす。左手は、相変わらず下半身をまさぐったままで。
「ふぁっ、やめっ…」
「首筋弱いの…」
突き飛ばそうとしたが、腕に力が入らず辰馬はびくともしない。
「…耳も」
息を吹き掛けられ、異様な程に大きく響く音を立てて耳の中を舐められる。
「ぃ、ゃァ…ふぁっ…」
奥歯をきつく噛み締めても、漏れてしまう声を抑えることができない。それだけ、辰馬は俺の身体を知り尽くしてしまっている。
「もう、こんなんなっとるよ」
熱を持って、はっきりと主張を始めた自身を、辰馬のデカイ手できゅうと握られた。
「っ、ざけんなっ!」
口ではそう、返してみたものの、それだけで、胸のあたりがどうしようもなく苦しくなって、俺は縋るように辰馬の首に腕を回した。
「晋、ただいま」
チュッと音を立てて口付けられて、涙が溢れてきた。
「もー、なんで泣くんじゃァ、晋」
動きを止めて、辰馬が困り果てた顔をしているのがわかったけど、俺の口からは鳴咽しか出てこない。
急に帰ってくるお前が悪いんだ。しかも、人が寝てる間におっ始めてるなんて、最低だ。
「晋、会いたかったぜよ」
頬を寄せて辰馬が囁く。
そんなもの。俺だって会いたかったに決まってるだろうが。
絶対ェ言ってやらねェけど。
「馬鹿野郎…っ」
力いっぱい睨みつけてやったら、辰馬のデカイ手で涙を拭われた。
「あー、すまん、晋。わし、もう我慢できん」
そう告げると、坂本は、すでに乱れていた高杉の着ながしの帯を解き、下着を引き下ろした。
「人の寝込み襲っといて、今更何言ってやがる」
「晋がいいって言ったんじゃあ」
「テメェ、俺の寝起きわかってんだろうがァ」
この確信犯め。
「あっはっは、あんな可愛いい顔で寝とる晋が悪いんじゃ」
笑いながら、頭の上に腕を伸ばす坂本。そこでようやく高杉は、自分の枕元に大きな箱があることに気がついた。
「なんだよ、コレ?」
「お土産じゃよ」
坂本はその箱の中から、チューブのようなものを取出し、どろりとした液体を手に取った。
「なんだ?ソ…ひィぁっ!!」
br あらわになった身体の裾に触れた辰馬の指の冷たさに悲鳴のような声が出た。
辰馬の指が遠慮なく身体の中に侵入してくるが、塗られた液体のせいか痛みが全くない。
「んっ…んァあっ、はふっ」
すぐに指は2本に増やされ、イイところを見つけられて執拗にそこばかり攻められる。辰馬の指が掠める度に、身体はビクビク跳ねた。
「相変わらずエロい身体じゃのう」
「テメェがそうさせてんだろうがっ!」
引き抜いた指の代わりに、ベルトを外し、取り出した自身を押し付けてきた辰馬に言ってやった。でも、辰馬は全然堪えてないみたいだ。
「晋、愛しとるよ」
堂々そう言い切った辰馬は、俺の両膝の裏に手を当てて、脚を抱え込んだ。そして、ゆっくりゆっくり腰を進めてくる。自身を根元まですっぽりと俺の中に収めると、辰馬は始めゆっくりと、次第に激しく腰を揺らしていく。
「んくっ…はっ…ァあっ…」
「晋っ…」
「んっ…ァ、…た…つま」
名前を呼ぶと口付けられた。腰の動きは止めないまま、胸の突起を甘噛みされて、自然と声が高くなる。たまらなくなって、力いっぱい辰馬の背中に腕を回し爪を立てた。
結合部から響くグチュグチュという音と自分の喘ぎ声だけが室内に響いていてもう、何がなんだかワケがわからなくなる。
顔にポタポタと水滴が滴り落ちて、ぎゅっと閉じていた瞳を、うっすら開けると、額や顎から汗を落としているけっこう必死な表情の辰馬の顔が見えた。
「はァ…っ、たつ…まっ…」
「晋助…っ…」
名前を呼ぶのが好き。名前を呼ばれるのが好き。
俺の中を激しく突きながら、ふにゃっと微笑む辰馬が好き。
「晋、愛しとう」
言いたい言葉を、言えずにいる言葉を、いつも先にくれる辰馬。
「ぅあ…た、つま…もぅ…っ、イ…くぅっ」
「晋、わしも」
泣きながら限界を訴えたら、辰馬の掠れた声が帰ってきた。
ギリギリまで腰を引いた坂本は、高杉の腰をしっかりつかみ、一気に最奥を貫いた。
「くっ…」
「ぅァあっ…ァァァァっ…」
低く呻いた坂本が肩を震わせるのとほぼ同時に、高杉は、大きく背中をのけ反らせて、自らの腹の上に白濁を吐き出した。
「晋…」
「んァ…んんっ…」
繋がったまま抱きしめられて重ねた唇は、なんだか甘い味がした。
***
辰馬の腕に抱かれて、布団の上に2人並んでごろ寝していた。
2人共すごく汗をかいていたし、後処理も何もしていないから、ぐちゃぐちゃだったけど、なぜだか全然気にならなかった。
頭の下に腕を通されて、辰馬の太い腕に抱きしめられている。辰馬の広い胸に耳を押し付けると心臓の音が聞こえて心地いい。
「お前、何持ってきたんだ?」
枕元の馬鹿デカイ箱のことを聞く。お土産だと言っていたが。
「いろいろ持って来たんじゃよ。久しぶりじゃからの」
「まさか、さっき使ってたみたいな、エログッズばっかりじゃねェだろうな?」
「半分くらいは…」
げしっと、辰馬の顎に拳を突き付けてやった。
「痛たたた…、酷いぜよ晋」
「テメェいっぺん死ね」
ああ、なんだか箱の中身を見るのが嫌になってきた。
「酷いぜよ〜。クリスマスじゃき、いっぱいプレゼント持って来たんじゃ」
クリスマス。ああ、そう言えばそうだった。
(あれ、何か忘れてる)
「来島の奴、ずいぶん遅いな」
1人で口の中で呟いた声が、辰馬にも聞こえたらしい。
「来島殿なら、さっきここに来たぜよ」
「…!?はァ?いつ?」
何を見られたんだ俺は。
「まだ晋助を脱がす前じゃったかのう。チューしてる時じゃ」
晋のエロい顔にあてられて、怒って出て行ったぜよ、と辰馬は呑気に笑うけど。
「テメェ、最低だっ!!」
怒鳴りつけて、立ち上がろうとしたら、腰に力が入らなかった。
カクンと膝が抜けて布団に倒れかけたところを辰馬に支えられて抱きしめられる。
br 「ええじゃろ。久しぶりなんじゃ、もう少し、こうしとって」
耳元で、こうやって抱きしめられて囁かれるのに弱い。
「それに、来島殿のところに行く前に、風呂に入った方がいいんじゃなかか?」
俺の身体を後ろから抱きしめたまま、布団の上に座る辰馬。
「それは誰のせいだ誰の」
「でも、晋も気持ち良さそうじゃった」
「お前なァ。…ずりィんだよ」
口で悪態を尽きながら、抱きしめられて、安心している俺がいる。突然で、しかも寝込み襲われて、頭にきたのは事実でありながら、テロどころじゃなくなったことに気付いてる。今はただ、辰馬にこうやって身体を預けていられることが嬉しい。
(本当に、来やがったな。プレゼント持って)
辰馬があの歌を知っているとは思わないけれど。
それでも、クリスマスに合わせて恋人は帰ってきた。
恋人がサンタクロース
本当はサンタクロース
プレゼントを抱えて
恋人はサンタクロース
背の高いサンタクロース
雪の町から来た
「辰馬、お前、いつまでいるんだ?」
肩に、頭をもたれさせて尋ねると、辰馬はにかっと笑って答えた。
「せっかくじゃからのぅ、しばらくおるつもりなんじゃ」
正月はこっちで過ごそうと思ってのと、俺の好きなあの笑顔を見せる。
それならしばらくは一緒にいれるんだと、なんだかんだ言ったけど、やっぱり帰ってきてくれて嬉しいと、自然と頬が緩んだ。
「銀時やヅラにも会いたいからのぅ。そうじゃ、昔みたいに、みんなで初詣でも行きたいの」
「お前、馬鹿だろ?」
初詣なんて人の集まる場所に、警察が警備に駆り出されないわけがないだろうが。お前や銀時はよくても、俺とヅラはテロリストなんだぜ?そんなとこ、堂々と行けるわけがない。
「大丈夫じゃあ。晋とヅラは、女装すれば真選組だってわからんじゃろ?そのつもりで、晋に新しい着物持ってきたし、銀時とヅラにも、手紙出したんじゃ」
「あ、そ」
そりゃずいぶん根回しのいいことで。ってか、何で俺が女装なんだテメェ!!
「俺は女装なんかしねェからな」
「なんでじゃ!晋は絶対似合うろー!さぞかし綺麗じゃろうと思って…」
「ふざけんなっ!」
ああ、もう付き合いきれない。さっさと風呂に入ってしまおう。
高杉は、坂本の腕を振り払って立ち上がった。
「俺は着ねェ。着物は、おりょうとかいう女にやればいいだろ」
すっかりぐちゃぐちゃの皺だらけになった着ながしに袖を通す。
「いや、おりょうちゃんにはおりょうちゃんで、別に土産が…」
げしっ!!
「だったらさっさと行っちまえ!!」
容赦なく蹴り上げた高杉の足は、ちょうど立ち上がろうとしていた坂本の肩のあたりに見事にヒットし、坂本は後方に吹っ飛んだ。
前言撤回。
ちょっとでも、帰ってきてくれて嬉しいなんて思った俺が馬鹿だった。こんな奴、サンタクロースでも何でもねェ!
俺は、申し訳程度に帯を締めて、さっさと部屋を出て風呂に向かった。
「晋、わしもっ」
全然メゲない辰馬が、大慌てで服を着て、追い掛けてきた。
「ついて来んなっ!!」
「一緒にお風呂入るぜよ〜」
「テメェとなんか入らねェっ!!」
高杉にしがみついて、ずるずる引きずられるように廊下を歩く坂本の姿を、偶然目撃した武市は深い溜息をついていた。
「明日のテロは中止ですね」
独り言を呟いた後、武市はテロ中止の司令を下したのだった。
***
あれからいくつ冬が巡り来たでしょう
今も彼女を思い出すけど
そうよ、明日になれば
私もきっとわかるはず
***
やっぱりテロは中止になった。坂本辰馬のせいだ。アイツが来ると、晋助様は人が変わってしまうから。
いや、もしかしたら、坂本辰馬といる時の晋助様が本当なんだろうか。しょっちゅう『死ね』とか『ウゼェ』とか言ってるくせに、晋助様は、それでもアイツが来ると嬉しそうなんだ。
勝てないことなんて最初から知ってる。
寒いのはわかっていたけど、縁側に座って、いつもは晋助様がやってるみたいに空を見上げていたら、通り掛かった似蔵が「困ったもんだねェ」と呟くのが聞こえた。
「困ったどころじゃないッス!」
つい、似蔵相手に声を荒げてしまう。
「仕方ないのも、わかるんだけどねェ」
話していたら、さっそく晋助様の怒鳴り声が聞こえてくる。
『俺は絶対ェ着ねェったら着ねェ!!』
『晋〜っ!ちょっとだけ!』
『テメェ死ねっ!!』
はァと、溜息しか出ない。
「溜息は幸せが逃げるって言うぜ?…おっと、俺は行くわ」
似蔵はさっさと部屋に戻ってしまった。なんだろう、普段いがみあってばっかりだけど、この件に関してだけは、似蔵と意見が合いそうだ。
「ふざけんなァァっ!!」
絶叫しながら廊下を走って来た晋助様は、そのまま私には気付きもせずに走り去って行く。
後から追い掛けて来たのは当然坂本辰馬。ああもう、さっさと行けばいいのに!
「すまんが、晋はどっちに行ったかのう?」
晋助様に気付かれなくて、お前に話しかけられたって、全然嬉しくないッスから!
「自分で探せばいいッス」
ツンと、坂本から顔を背けて、私は立ち上がり、部屋へ戻る道を歩き始めた。
「何じゃ、怒らせてしまったかのう」
後ろで坂本が、呑気に笑っていた。お前のせいッスよ、お前のせい!気付け!
苛々する気持ちのまま、部屋の前まで行くと、ちょうど万斉が帰って来たところだった。
「あ、また子!いいところに」
「何なんスか?」
ああ、似蔵に続いて、万斉にまで当たってしまったッス。
「あの…。メリークリスマス」
万斉は、後ろに隠し持っていた紙袋を差し出した。
「レコーディングで、あんまり時間なくて…。たいしたモノではないでござるが…」
「万斉…?」
私は、万斉と紙袋を交互に見つめた。
ナントカっていう、けっこうな値の張るブランドの紙袋。
(…背の高いサンタクロース…?)
茫然と立ち尽くしたまま、私は言うべき言葉が見つからなかった。
To be continued…
似蔵誕生日から引っ張った『恋人がサンタクロース』って、1980年の曲なんですよね…
古いなんて本人が一番わかって書いてましたからァ!
No reproduction or republication without written permission.
クリスマスの日私に言った
今夜8時になれば
サンタがうちにやってくる
恋人がサンタクロース
似蔵の誕生日に、万斉が歌った歌が、未だ頭から離れない。
天人が持ち込んだ風習だかなんだか知らねェが、町中そんなに浮かれてる日だってンなら、幕吏達もさぞ、油断してるんだろうなァ。
てめェらは呑気に酒でも飲んでたらいいさ。最期の思い出が、楽しい酒の席なんて、なかなかいいもんなんじゃねェか?
みんなで夜中まで飲んでいて、睡眠不足なのはわかっていたが、さっそく来島に、幕吏が集まってそうな場所を調べさせることにした。まぁ、夕方までに調べてくれればそれでいい。
パーティーとかいうらしいが、やっぱりあいつは女だから、その辺は詳しいな。
来島が戻ってくるまで少し休もうと思って、横になっていたら、本格的に眠ってしまっていたようだ。
寝起きでまだ頭が働かない。寝返りを打とうとしたら、身体が動かなかった。
なんだろう、首のあたりがやけにくすぐったい。誰かいる、ということはなんとか認識したが、それでも目が開けられない。
「んァ…な…んっ」
抵抗もできないうちに、深く唇を塞がれた。されるがままに、唇を吸いあげられ、舌を絡め取られる。ただでさえ意識がはっきりしないというのに、酸素不足でますます頭がぼぅーっとしてきた。
ようやく唇が離された時、やけに部屋の中がうるさくて、そっちを見たけど、ほとんど開かない目のままでは、やっぱり何だかわからなかった。多分来島なんだけど、視界がぼやけて誰だかわからない。
頼んだ調査から帰って来たんかな…?だったら、いい加減起きねェとな。
無理矢理身体を起こそうとしたら、デカイ手に肩を抑えつけられて、また唇を塞がれた。
あ、やばい、気持ちイイ。
目を閉じて、この気持ち良さに、しばらく全身を委ねてみる。
はだけた肌の上を大きな手が這っていって、俺の身体は勝手にピクンと跳ねた。
ってか、どこ触ってんだよコイツ…っ!
「ゃ…やめっ!!」
ようやく重たい瞼を上げると、いるはずのない奴がそこにいた。
***
幕吏のパーティー会場を、いくつか調べて晋助様に報告に向かう。クリスマスにテロなんて、晋助様らしくってすごくイイ。クリスマスの浮かれた空気に赤い血が舞う様。晋助様はきっと、その中で、刀を光らせ返り血を浴びて、ひときわ綺麗なんだろう。
似蔵の誕生日の時に見せた、やわらかく笑う晋助様も好きだけど、そんな目的のために刀を振るう晋助様も素敵だ。
「晋助様、失礼します…!!」
晋助様の部屋の扉を開いたら、布団の上に、誰かが覆い被さっていた。
「お、お前!!何してるッスか!!」
私の怒鳴り声に顔を上げたのは、…口角を上げて不敵に微笑む坂本辰馬。なんでこんなところにいる?
「お前、晋助様に何してるッスか!!」
すぐさま拳銃を抜いて坂本辰馬に突き付けた。
「怖いのぅ。なぁんにもしとらんよ、のぅ、晋」
こいつの、この余裕の笑顔がいつもムカつくんだ。
焦点の合わない瞳で、ぼんやりこっちを見た晋助様は口の端から銀糸を垂らして、荒い息のまま、はだけた胸を隠そうともしなかった。
「…もう、知らないッス!!」
たまらなくなって、私は晋助様の部屋から飛び出した。
***
「おまっ、何やってんだ!!」
急激に脳内が覚醒していく。
「しようって言ったら、晋が『うん』って言ったんじゃよ」
へらへら笑いながら、坂本は高杉の首筋に口付けを落とす。左手は、相変わらず下半身をまさぐったままで。
「ふぁっ、やめっ…」
「首筋弱いの…」
突き飛ばそうとしたが、腕に力が入らず辰馬はびくともしない。
「…耳も」
息を吹き掛けられ、異様な程に大きく響く音を立てて耳の中を舐められる。
「ぃ、ゃァ…ふぁっ…」
奥歯をきつく噛み締めても、漏れてしまう声を抑えることができない。それだけ、辰馬は俺の身体を知り尽くしてしまっている。
「もう、こんなんなっとるよ」
熱を持って、はっきりと主張を始めた自身を、辰馬のデカイ手できゅうと握られた。
「っ、ざけんなっ!」
口ではそう、返してみたものの、それだけで、胸のあたりがどうしようもなく苦しくなって、俺は縋るように辰馬の首に腕を回した。
「晋、ただいま」
チュッと音を立てて口付けられて、涙が溢れてきた。
「もー、なんで泣くんじゃァ、晋」
動きを止めて、辰馬が困り果てた顔をしているのがわかったけど、俺の口からは鳴咽しか出てこない。
急に帰ってくるお前が悪いんだ。しかも、人が寝てる間におっ始めてるなんて、最低だ。
「晋、会いたかったぜよ」
頬を寄せて辰馬が囁く。
そんなもの。俺だって会いたかったに決まってるだろうが。
絶対ェ言ってやらねェけど。
「馬鹿野郎…っ」
力いっぱい睨みつけてやったら、辰馬のデカイ手で涙を拭われた。
「あー、すまん、晋。わし、もう我慢できん」
そう告げると、坂本は、すでに乱れていた高杉の着ながしの帯を解き、下着を引き下ろした。
「人の寝込み襲っといて、今更何言ってやがる」
「晋がいいって言ったんじゃあ」
「テメェ、俺の寝起きわかってんだろうがァ」
この確信犯め。
「あっはっは、あんな可愛いい顔で寝とる晋が悪いんじゃ」
笑いながら、頭の上に腕を伸ばす坂本。そこでようやく高杉は、自分の枕元に大きな箱があることに気がついた。
「なんだよ、コレ?」
「お土産じゃよ」
坂本はその箱の中から、チューブのようなものを取出し、どろりとした液体を手に取った。
「なんだ?ソ…ひィぁっ!!」
br あらわになった身体の裾に触れた辰馬の指の冷たさに悲鳴のような声が出た。
辰馬の指が遠慮なく身体の中に侵入してくるが、塗られた液体のせいか痛みが全くない。
「んっ…んァあっ、はふっ」
すぐに指は2本に増やされ、イイところを見つけられて執拗にそこばかり攻められる。辰馬の指が掠める度に、身体はビクビク跳ねた。
「相変わらずエロい身体じゃのう」
「テメェがそうさせてんだろうがっ!」
引き抜いた指の代わりに、ベルトを外し、取り出した自身を押し付けてきた辰馬に言ってやった。でも、辰馬は全然堪えてないみたいだ。
「晋、愛しとるよ」
堂々そう言い切った辰馬は、俺の両膝の裏に手を当てて、脚を抱え込んだ。そして、ゆっくりゆっくり腰を進めてくる。自身を根元まですっぽりと俺の中に収めると、辰馬は始めゆっくりと、次第に激しく腰を揺らしていく。
「んくっ…はっ…ァあっ…」
「晋っ…」
「んっ…ァ、…た…つま」
名前を呼ぶと口付けられた。腰の動きは止めないまま、胸の突起を甘噛みされて、自然と声が高くなる。たまらなくなって、力いっぱい辰馬の背中に腕を回し爪を立てた。
結合部から響くグチュグチュという音と自分の喘ぎ声だけが室内に響いていてもう、何がなんだかワケがわからなくなる。
顔にポタポタと水滴が滴り落ちて、ぎゅっと閉じていた瞳を、うっすら開けると、額や顎から汗を落としているけっこう必死な表情の辰馬の顔が見えた。
「はァ…っ、たつ…まっ…」
「晋助…っ…」
名前を呼ぶのが好き。名前を呼ばれるのが好き。
俺の中を激しく突きながら、ふにゃっと微笑む辰馬が好き。
「晋、愛しとう」
言いたい言葉を、言えずにいる言葉を、いつも先にくれる辰馬。
「ぅあ…た、つま…もぅ…っ、イ…くぅっ」
「晋、わしも」
泣きながら限界を訴えたら、辰馬の掠れた声が帰ってきた。
ギリギリまで腰を引いた坂本は、高杉の腰をしっかりつかみ、一気に最奥を貫いた。
「くっ…」
「ぅァあっ…ァァァァっ…」
低く呻いた坂本が肩を震わせるのとほぼ同時に、高杉は、大きく背中をのけ反らせて、自らの腹の上に白濁を吐き出した。
「晋…」
「んァ…んんっ…」
繋がったまま抱きしめられて重ねた唇は、なんだか甘い味がした。
***
辰馬の腕に抱かれて、布団の上に2人並んでごろ寝していた。
2人共すごく汗をかいていたし、後処理も何もしていないから、ぐちゃぐちゃだったけど、なぜだか全然気にならなかった。
頭の下に腕を通されて、辰馬の太い腕に抱きしめられている。辰馬の広い胸に耳を押し付けると心臓の音が聞こえて心地いい。
「お前、何持ってきたんだ?」
枕元の馬鹿デカイ箱のことを聞く。お土産だと言っていたが。
「いろいろ持って来たんじゃよ。久しぶりじゃからの」
「まさか、さっき使ってたみたいな、エログッズばっかりじゃねェだろうな?」
「半分くらいは…」
げしっと、辰馬の顎に拳を突き付けてやった。
「痛たたた…、酷いぜよ晋」
「テメェいっぺん死ね」
ああ、なんだか箱の中身を見るのが嫌になってきた。
「酷いぜよ〜。クリスマスじゃき、いっぱいプレゼント持って来たんじゃ」
クリスマス。ああ、そう言えばそうだった。
(あれ、何か忘れてる)
「来島の奴、ずいぶん遅いな」
1人で口の中で呟いた声が、辰馬にも聞こえたらしい。
「来島殿なら、さっきここに来たぜよ」
「…!?はァ?いつ?」
何を見られたんだ俺は。
「まだ晋助を脱がす前じゃったかのう。チューしてる時じゃ」
晋のエロい顔にあてられて、怒って出て行ったぜよ、と辰馬は呑気に笑うけど。
「テメェ、最低だっ!!」
怒鳴りつけて、立ち上がろうとしたら、腰に力が入らなかった。
カクンと膝が抜けて布団に倒れかけたところを辰馬に支えられて抱きしめられる。
br 「ええじゃろ。久しぶりなんじゃ、もう少し、こうしとって」
耳元で、こうやって抱きしめられて囁かれるのに弱い。
「それに、来島殿のところに行く前に、風呂に入った方がいいんじゃなかか?」
俺の身体を後ろから抱きしめたまま、布団の上に座る辰馬。
「それは誰のせいだ誰の」
「でも、晋も気持ち良さそうじゃった」
「お前なァ。…ずりィんだよ」
口で悪態を尽きながら、抱きしめられて、安心している俺がいる。突然で、しかも寝込み襲われて、頭にきたのは事実でありながら、テロどころじゃなくなったことに気付いてる。今はただ、辰馬にこうやって身体を預けていられることが嬉しい。
(本当に、来やがったな。プレゼント持って)
辰馬があの歌を知っているとは思わないけれど。
それでも、クリスマスに合わせて恋人は帰ってきた。
恋人がサンタクロース
本当はサンタクロース
プレゼントを抱えて
恋人はサンタクロース
背の高いサンタクロース
雪の町から来た
「辰馬、お前、いつまでいるんだ?」
肩に、頭をもたれさせて尋ねると、辰馬はにかっと笑って答えた。
「せっかくじゃからのぅ、しばらくおるつもりなんじゃ」
正月はこっちで過ごそうと思ってのと、俺の好きなあの笑顔を見せる。
それならしばらくは一緒にいれるんだと、なんだかんだ言ったけど、やっぱり帰ってきてくれて嬉しいと、自然と頬が緩んだ。
「銀時やヅラにも会いたいからのぅ。そうじゃ、昔みたいに、みんなで初詣でも行きたいの」
「お前、馬鹿だろ?」
初詣なんて人の集まる場所に、警察が警備に駆り出されないわけがないだろうが。お前や銀時はよくても、俺とヅラはテロリストなんだぜ?そんなとこ、堂々と行けるわけがない。
「大丈夫じゃあ。晋とヅラは、女装すれば真選組だってわからんじゃろ?そのつもりで、晋に新しい着物持ってきたし、銀時とヅラにも、手紙出したんじゃ」
「あ、そ」
そりゃずいぶん根回しのいいことで。ってか、何で俺が女装なんだテメェ!!
「俺は女装なんかしねェからな」
「なんでじゃ!晋は絶対似合うろー!さぞかし綺麗じゃろうと思って…」
「ふざけんなっ!」
ああ、もう付き合いきれない。さっさと風呂に入ってしまおう。
高杉は、坂本の腕を振り払って立ち上がった。
「俺は着ねェ。着物は、おりょうとかいう女にやればいいだろ」
すっかりぐちゃぐちゃの皺だらけになった着ながしに袖を通す。
「いや、おりょうちゃんにはおりょうちゃんで、別に土産が…」
げしっ!!
「だったらさっさと行っちまえ!!」
容赦なく蹴り上げた高杉の足は、ちょうど立ち上がろうとしていた坂本の肩のあたりに見事にヒットし、坂本は後方に吹っ飛んだ。
前言撤回。
ちょっとでも、帰ってきてくれて嬉しいなんて思った俺が馬鹿だった。こんな奴、サンタクロースでも何でもねェ!
俺は、申し訳程度に帯を締めて、さっさと部屋を出て風呂に向かった。
「晋、わしもっ」
全然メゲない辰馬が、大慌てで服を着て、追い掛けてきた。
「ついて来んなっ!!」
「一緒にお風呂入るぜよ〜」
「テメェとなんか入らねェっ!!」
高杉にしがみついて、ずるずる引きずられるように廊下を歩く坂本の姿を、偶然目撃した武市は深い溜息をついていた。
「明日のテロは中止ですね」
独り言を呟いた後、武市はテロ中止の司令を下したのだった。
***
あれからいくつ冬が巡り来たでしょう
今も彼女を思い出すけど
そうよ、明日になれば
私もきっとわかるはず
***
やっぱりテロは中止になった。坂本辰馬のせいだ。アイツが来ると、晋助様は人が変わってしまうから。
いや、もしかしたら、坂本辰馬といる時の晋助様が本当なんだろうか。しょっちゅう『死ね』とか『ウゼェ』とか言ってるくせに、晋助様は、それでもアイツが来ると嬉しそうなんだ。
勝てないことなんて最初から知ってる。
寒いのはわかっていたけど、縁側に座って、いつもは晋助様がやってるみたいに空を見上げていたら、通り掛かった似蔵が「困ったもんだねェ」と呟くのが聞こえた。
「困ったどころじゃないッス!」
つい、似蔵相手に声を荒げてしまう。
「仕方ないのも、わかるんだけどねェ」
話していたら、さっそく晋助様の怒鳴り声が聞こえてくる。
『俺は絶対ェ着ねェったら着ねェ!!』
『晋〜っ!ちょっとだけ!』
『テメェ死ねっ!!』
はァと、溜息しか出ない。
「溜息は幸せが逃げるって言うぜ?…おっと、俺は行くわ」
似蔵はさっさと部屋に戻ってしまった。なんだろう、普段いがみあってばっかりだけど、この件に関してだけは、似蔵と意見が合いそうだ。
「ふざけんなァァっ!!」
絶叫しながら廊下を走って来た晋助様は、そのまま私には気付きもせずに走り去って行く。
後から追い掛けて来たのは当然坂本辰馬。ああもう、さっさと行けばいいのに!
「すまんが、晋はどっちに行ったかのう?」
晋助様に気付かれなくて、お前に話しかけられたって、全然嬉しくないッスから!
「自分で探せばいいッス」
ツンと、坂本から顔を背けて、私は立ち上がり、部屋へ戻る道を歩き始めた。
「何じゃ、怒らせてしまったかのう」
後ろで坂本が、呑気に笑っていた。お前のせいッスよ、お前のせい!気付け!
苛々する気持ちのまま、部屋の前まで行くと、ちょうど万斉が帰って来たところだった。
「あ、また子!いいところに」
「何なんスか?」
ああ、似蔵に続いて、万斉にまで当たってしまったッス。
「あの…。メリークリスマス」
万斉は、後ろに隠し持っていた紙袋を差し出した。
「レコーディングで、あんまり時間なくて…。たいしたモノではないでござるが…」
「万斉…?」
私は、万斉と紙袋を交互に見つめた。
ナントカっていう、けっこうな値の張るブランドの紙袋。
(…背の高いサンタクロース…?)
茫然と立ち尽くしたまま、私は言うべき言葉が見つからなかった。
To be continued…
似蔵誕生日から引っ張った『恋人がサンタクロース』って、1980年の曲なんですよね…
古いなんて本人が一番わかって書いてましたからァ!
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