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「ひどいでござる、晋助、拙者の時は全く…」
「だーっ、テメェの時とはまた違ェだろーが!」

いつもは人が寄り付かないはずの、総督の部屋から喧しい声が響いている。

星空の下で


「何言ってるッスか!どうせ自分の誕生日忘れてたくせに!」
「仕方ないでござる、スタジオに篭りっきりで…」
「だったら晋助様に文句言うなッス、万斉」

今この部屋に集まっているのは、鬼兵隊の幹部の一部、言わずと知れた、高杉晋助、河上万斉、来島また子の3人である。

「晋助、今からでも2人きりで拙者の誕生日をやり直…」
「うるせェっつぅの!!」

一向に進まない話し合い。さっきから自分のことばかり言っていた万斉の顔面に、とうとう高杉が使っていた脇几(わきづき)が飛んだ。

「ヒドイでござる…」

一度、盛大に吹っ飛んだ万斉だが、几帳面にも脇几を高杉の元へ戻しながら、とにかく静かになった。
わざわざ幹部が3人で集まって話していた事案とは、来週に迫った武市変平太の誕生日の相談なのである。
いつものように、隊士みんなで飲み明かしてもいいのだが、当の武市本人が、あまりそういった賑やかなことを好まない性格ときている。それで、『どうしよう?』と言い出したのは、自らも誕生日の当日には宴会を開かなかった高杉だった。高杉の時は、誕生日当日の朝に坂本辰馬がこのアジトへやってきたため、隊士の誰もが、1日中ずっと、高杉の部屋には近づかなかった。万斉や来島でさえもだ。
坂本も巻き込んで宴会になったのは2日後の話。万斉がさっきからわめいていたのは、『自分も晋助と2人きりでヤリながら誕生日を過ごしたかったー』と、どこまで本気なのかわからない主張。

「もー、だからよォ、あいつらに決めさせようぜ?」

このまま話していたところで拉致があかないと悟った高杉は、また子に使いを頼んだ。
向かわせた先は、岡田似蔵の部屋。

***

「似蔵、晋助様が呼んでるッス」

相変わらず険のある声の来島に呼ばれて、一緒について行ったら、高杉さんの部屋には河上がいた。当然、来島も高杉さんの隣に座る。

「おい、似蔵。お前来週どうすんだ?」

唐突な高杉さんの言葉に、最初は何のことだかわからなかった。

***

『たまたま宿泊券があるからテメェらで行ってこい』と、高杉さんに突然呼び出されて言われたのは9月26日の夕方でした。渡されたのはホテル池田屋のセミ・スィートの宿泊券。意味がわからずにいたら『命令だ、行け。お前ら明日まで休みだ』と高杉さんに睨まれたから素直に受け取りました。命令だと言われてまで断る理由はありませんから。

それにしても、どうして自分と似蔵さんなんでしょうか。いや、誰かと2人で行けと言われたら、似蔵さん以外には有り得ないんですけど。本当に『たまたま宿泊券があった』なら、来島さんと河上さんや、もしくは高杉さんが坂本さんと一緒に行けばいいのにな、と思ったんですよ。

とにかく高杉さんの命令ですから、何か意味があるのかもしれません。軽く仕事を片付けて用意して。似蔵さんと一緒にアジトを出てかぶき町に向かう頃には、夜の9時を過ぎてしまっていました。

池田屋の23階の部屋に通されると、すぐに元々用意されていたらしい夕食になります。部屋まで運んで来てもらえるのは、こちらとしても有り難いし(なんせ私達はテロリストですから)、江戸の町の夜景も綺麗なのですが、私も似蔵さんも、そんなにしゃべる方ではありません。時々『おいしいですね』と言い合うくらいで、あとは静かな時間が流れてゆきます。まァ、それが心地良かったと言えばそうなんですけどね。これが、一緒に来た相手が似蔵さんじゃなければ、こうは行かなかったと思います。

急に休みを命じられて、なんだかのんびりした時間を過ごしていたら、日付も変わりそうな時間になって、ボーイがルームサービスにと、お酒を持ってきました。あれ?どうやらあまり驚いてないということは、似蔵さんは知っていたのでしょうか?

「武市さん」

グラスに酒を注いであげると、似蔵さんが私を呼びました。

「誕生日、おめでとうございます」
「えっ?」

時計を確認したら、9月27日の0時02分でした。

(そういうことですか…)

いきなりホテルなんかに泊まりに行けと言った高杉さんの真意もいきなりの休みも、似蔵さんがルームサービスに驚かなかったのも。きっと、目が見えない似蔵さんのために、最初から時間が決めてあったのでしょう。

「ありがとうございます」

似蔵さんとグラスを合わせて。私達は夜景の見える窓辺に並んで座って。酒を飲みながらゆっくりとした時間を過ごしました。
似蔵さんには夜景が見えていないから、私が話して聞かせましょう。


END



武市さんおめでとう!!たまにはこんな話(爆)
脇几がわからなければ古語辞典で調べましょう






















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