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「っ、ざけんじゃねェっ!!」
「えいじゃろ〜、晋」
「そうでござる、もう腹をくくるでこざるよ、晋助」
「絶対ェ嫌だっ!!」

坂本が、クリスマスの日に鬼兵隊のアジトを訪れてから、一週間が経っていた。

初詣に行こう


「万斉、テメェいつから寝返ったっ!」
「それは人聞きの悪い言い方でござるなァ」

万斉と坂本。長身の2人がかりで押さえつけられ、無理矢理着替えさせられている高杉は、自分を後ろから羽交い締めにしている万斉を思い切り睨み上げた。

「そうじゃよ〜、晋、この方がおんしも楽しめるろ〜」

せっかく協力してくれとるんじゃ、と笑う坂本は、手際よく高杉の着付けを済ませてゆく。

「有り得ねェ、まじで有り得ねェ!」

高杉に着せられているのは、最高級の生地から坂本が作らせた、女物の晴れ着。深い紫色の着物の裾にあしらわれた、大胆な椿と鶴。贅沢に、惜し気もなく使われた金糸や銀糸。
坂本が、最後のしめに帯を整える頃には、すっかりあきらめた高杉は大人しくなっていた。

「マジで有り得ねェ…」

ご丁寧に、胸に詰め物まで入れられ、後頭部に長い付け毛、簪までさした高杉は、どこからどう見ても美人の女の子だった。

「ほんにかわええのぅ!晋、もうそのまま、嫁に来ィ」
「ふざけんなっ!」

最初に着ていた着ながしを脱がされるところから2人を相手に暴れていた高杉は、疲れ果ててぐったりと座り込んだ。

「また子、出番でござるよ〜」

廊下に顔を出した万斉が呼んだ。

「ちょ、待て!出番ってどういう意味だよ?」

まだ何かあるのか?と怒鳴る高杉。その横で、坂本はさっさと自分の着替えを始めている。

「なぁに言っとるんじゃ、そこまでしたなら、化粧も必要じゃろ〜?」
「け、化粧…?」

唖然と口をパクパクさせる高杉のところへ、化粧道具を抱えたまた子がやってきた。

「来島ァ、テメェまでこの馬鹿につくとはなァ」

その言葉に、一瞬怯んだまた子だが、チラっと坂本を見て、すぐに表情をひきしめる。すっかり女の子になった高杉の前に座り、意を決したように化粧道具を広げた。

「晋助様、化粧させてもらうッス」

また子の言葉に、ハァと溜息を落とす高杉。

「もう、好きにしろ」

投げやりな態度でそう呟くと、楽しそうな坂本の顔が視界に入ってきた。

***

大江戸神宮の前には、夕方からたくさんの人が集まって来ていた。日付が変わる30分前の待ち合わせの時間には、境内に行列ができてしまっている。

「まさかお前、コレに並ぶってんじゃねェだろうなァ?」

後から後から集まって来る人波に、もはや嫌気がさしている高杉は、不機嫌な声を上げた。

「そりゃそうぜよ〜、初詣じゃもん」

高杉は、この日何度目かわからない溜息と『有り得ねェ』というぼやきを漏らした。

「だいたい、あいつら遅ェんだよ!何してんだ?」

高杉の怒りは、一向に訪れない2人に向けられる。

「どこぞの露店で寄り道でもしとるんじゃろー」

坂本は、あまり気にならないらしく、いつも通り笑っている。
大江戸神社までの長い参道の両脇には、たくさんの屋台が並び、その、祭の雰囲気は好きなのだが。いかんせん、警備に駆り出されて、人波を整列させている真選組が気になって仕方ない。見つかることそのものよりも女装しているという、事実を真選組なんかに知られる方がよほど恥ずかしい。

「大丈夫じゃよ、そんなに気にせんでも」

そんな高杉の気持ちを知ってか知らでか、坂本は自信満々で言うのだ。

「ほれ、こうやってくっついとれば、どっから見ても男女のカップルじゃ」

高杉の細い肩を抱くように引き寄せ坂本は小声で囁いた。

「っつぅかさ…」
(それなら2人きりでよかったんじゃないのか?)

言いかけて高杉は、ソレを口にするのを止めた。辰馬が、桂や銀時といった、昔の仲間のことを、どう思っているかを、一番よく知っているのは自分じゃないか。地球に帰って来る度に、自分には会いに来てくれるけど、きっと辰馬がアイツらに会うのは久しぶりのはずだ。

「なァ、たつ…」
「しかし、遅いの」
2人同時に出した声が重なって、坂本は高杉に続きを促した。

「いや、なんでもない」
「ほうか。…晋、並ぶのは後にして、先に飲んでまおっか」

長身の坂本がキョロキョロ見回しても、桂と銀時の姿は一向に見えない。これ以上高杉の機嫌が悪くなる前にと、坂本が先手を打ったのだ。

「でも、あいつら来た時にいなかったら…」
「大丈夫じゃろ〜、桂が携帯持ってるし」
この先日付が変われば携帯なんて繋がり悪くなるんじゃないかと思ったが、それは口に出さなかった。会えなかったら会えなかったで、辰馬と2人きりならそれでいい。遅れてくるアイツらが悪いのだから。

ちゃんと椅子やテーブルを構えて営業している広い露店に入る。中は混んでいて、2人分の座る場所を確保するので精一杯だ。

(あいつら遅れて来ても知らねェ)

冷えた身体を温める酒とおでん。高杉が黙っていても、坂本が勝手にどんどん注文していった。
そんなにお腹が空いていたわけではないけれど、せっかくだからいただくことにする。

「晋、ずいぶん大人しいの?腹減ってたがか?」
「違ェよ」

こんな女の格好で、声だけ男なんて、おかしいに決まっている。だから、あまりしゃべらないようにしているだけだと言うのに、わかってない奴だ。

「晋、わしな、明日戻らんといけんのじゃ」
「…そーかよ」

明日か。そりゃそうだよな、なんだかんだで一週間もいたんだから。

「で、の。次はちっくと、長くなるかもしれんのじゃ」
「どうせテメェ、今回だって3ヵ月帰ってこなかっただろ」

だいたい、2ヵ月に1回は帰ってくる奴が。

「そうじゃったかのー?」

あっはっはと声を上げて笑う坂本。お前はいい。だけど、連絡の手段もなく、ただ待ってるだけの俺は、どうしても、会ってない期間を数えて記憶に留めてしまう。だからと言って、辰馬と一緒に行くこともできないけれど。

「待ってて、くれるかの?」
「お前なァ」

何言ってやがんだ今更そんなこと。
何年でも待っててやらァと、言おうか言うまいか悩んでいたら、突然辰馬の携帯が鳴った。

「桂からじゃ」

通話ボタンを押して辰馬は、自分達の居場所を説明し始める。どうせお前ら来たって座る場所ねェよ、と思いながら坂本の横顔を眺め、酒を飲んでいたら、なぜだか知らないが、俺達の横の、4人がけの席が空いた。

(ちぇっ)

やっぱり辰馬は、隣に移ろうと目や指で合図してきた。桂も銀時も、悪運の強ェ野郎共だ。
通話を終えた坂本がおでんも全部隣に移動させて、酒と料理の追加を頼む。それが運ばれてくると、坂本は高杉の肩に腕を回して抱き寄せた。

「なんだよ?」

元々、人前だとか、そういうことは気にしない奴だが、今日は女装のせいで、更に大胆になられているような気がする。こんなことなら向かい側に座るんだっただろうか?でも、ヅラか銀時に、辰馬の隣に座られるのもなんだかシャクだ。

「晋」

呼ばれて顔を上げると、いきなり口付けられた。だけど、どうやら周りの誰も、俺達なんか眼中にないらしい。どこからともなく沸き上がった、カウントダウンの声がだんだん大きくなって、ここの客はみんな店の端に設置された小さなテレビを向いているらしい。

5、
4、
3、
2、
1。

「あけましておめでとう〜!!!」

店内が一気に盛り上がって、ようやく辰馬は唇を離した。

「晋、あけましておめでとう」

今年最初に俺が見たものは、照れくさそうに笑う、辰馬の顔だった。

「ちょっとちょっとォ」

間延びした声が響いて、ようやく遅れていた2人が到着した。

「俺達呼んどいて、なーに2人の世界作っちゃってるワケェ!?」

チョコバナナをかじりながら近付いてきた銀時と、気まずいような顔の桂、いやヅラ子。自分同様しっかり女の姿の桂は俺以上に、まさか男だなんて思われないだろう。

「テメェらが遅ェからだろーがっ!!」
「いやァ晋ちゃん、女の子がそんな言葉遣いしないのっ!」

食べ終わったチョコバナナの串になっていた割り箸を、両手で持って、ポーズを取りながら銀時。

「銀時…テメェ、殺す!」

とは言っても、さすがに今日は腰に刀なんて挿してはいない。

「まぁまぁ、喧嘩はやめるろー」
「やめろ銀時!だいたいお前が悪いんだろうが!」

坂本とヅラ子が間に入って2人を抑えた。

「せっかく久しぶりに4人で会ったんじゃァ、仲良くするぜよ」

あっはっは、という坂本の笑い声を聞いていると、毒気が抜けていくような気がするから不思議だ。

「にしても、おんしらなんでこんなに遅くなったんじゃ?」

高杉の肩から腕を降ろしたようで、実はさりげなく腰に回した坂本が尋ねた。

「その前に辰馬ァ、あけましておめでと」

席に着いた銀時が、先に頼んであった酒を持つ。

「それもそうじゃな」
「乾杯」

4人はそれぞれ、挨拶の言葉を交わしあった。

「で。なんでこんな遅くなったんだよ」

坂本の手には気付いていながらも、そのまま放っておくことにした高杉が、あえて桂に向かって聞いた。

「この馬鹿が、チョコバナナの前から動かなかったんだ」

お金も持ってないくせに、食べたい食べたいと駄々をこねた銀時に根負けして、桂が買ってやったのだという。しかも、チョコバナナの前に、わたあめや林檎飴の前でも同じことをやられ、そこはなんとか引っ張ってきた桂だが、3度目のチョコバナナで、いい加減面倒になったらしい。

「テメェ馬鹿だろ、この糖尿天パ」
「お前はいいよなー、辰馬に何でも買ってもらえんだろ?」
「それくらい自分で買うだろフツー」

また言い合いを始めそうな空気に、坂本と桂の2人が、それぞれ隣を止めた。

「やめんか2人共」
「そうじゃよ、元旦から喧嘩はいかんぜよ」

ツンとそっぽを向いた2人。なんでまた、この2人が向かえ合わせになってしまったのか。

「ヅラ、元気そうじゃの」

そんな様子を楽しげに見つめながら、坂本は、前の桂に言った。もちろん、左腕は、今も高杉の腰に回したまま。

「ヅラじゃない、ヅラ子だ。…まぁ、変わらんよ」

久しぶりに会えば、思い出話に花が咲く。いつの間にか、そっぽを向いていた高杉も銀時も、話の輪の中に入っていた。

***

散々飲んで話して、会計は坂本に押し付けて。4人がお参りを済ませた時にはもう、東の空がうっすら明るくなっていた。

「晋、見るんじゃ、大凶じゃよ!こんな珍しかもん引いたんじゃあ、今年もわしの運気は上々じゃあ」

あっはっはと笑いながら抱き着いてくる坂本の手には、確かに大凶と書かれた御神籤。

「お前、おみくじなんか引くだけ無駄だろ」

呆れる高杉の手には、対照的に大吉。

(絶対ェこんなの当たらねェ)

新年から人前でベタベタされている自分の境遇を考えて、高杉は思った。しかも女装だ女装。
おみくじなんかよりわたあめだ!と走って行った銀時が戻ってきて、やけに1人暗い桂を後ろから覗き込む。

『凶』

がっくりと肩を落とし、桂は真剣に中の文章を読んでいる。

「安心しろよヅラ、あの馬鹿大凶だぜ」

たかがおみくじと、笑い飛ばせない桂に銀時が声をかける。

「今年の大きな計画は、ことごとく失敗するそうだ…」
「だから、ただのおみくじだっつぅの!」

そんなに落ち込むなら引くなと言いたくなる銀時。

「初日の出見に行こうぜよ〜」

さりげなく高杉と手を繋いだ坂本が言い出して、銀時は桂の腕を引っ張った。これじゃ完全にWデートだよなコノヤロー。ラブラブなのはあっちだけなのに。
境内の外へ出ると、江戸の町の間から、僅かに太陽の姿が見えてくる。

「また、来年も来れるかの」

4人好き勝手に東の空を見上げながら路上に座ると、坂本が呟いた。

「テメェが帰ってくればいいだけの話だろ」

手を繋がれたままで、隣に座っていた高杉が、その呟きに応える。

「それもそうじゃ」
「馬鹿辰馬」

坂本は東の空を見上げたまま、悪態をつく高杉を見つめていた。
昇ってくる光に照らされた高杉を、今年一番の太陽そのものよりも、ずっとずっと、眩しいと思うのだ。

「待っててやるよ」
「…晋?」

見つめていたのに、急に紡がれた言葉の意味がわからず、反応が一瞬遅れた。

「何年でも待っててやらァ。馬鹿」

恥ずかしいのか、顔を背けて高杉は言った。

「晋!」

そんな姿が、どうしようもなく愛おしくなって、坂本はそのまま高杉に抱き着いた。向こうで呆れ顔の桂と銀時が少しずつ離れて行くのも気にしない。

「来年も、帰ってくるが、初詣はナシじゃ」

意味がわからないまま無言の高杉に、坂本は更に続ける。

「来年は、セックスしながら、新年ば迎えるぜよ」
「ーっ!!馬鹿かテメェっ!!」

怒鳴りながら坂本から離れようと暴れる高杉。

「初詣に来ちゃー、チューしかできんからのぅ」

そう、今年は、キスされたままの状態で、新年を迎えてしまったのだ。

「テメェやっぱり帰ってくんな!」
「それじゃあ寂しかろー」

あっはっは、と笑う坂本のデカイ声が、東の空に響いていた。


To be continued…



無理矢理終われ。



↓オマケ

***

女装した高杉と坂本の2人を見送った後の、鬼兵隊のアジト。

「それにしても、よく坂本に協力する気になったでござるな、また子」

一足早く、酒を飲みながら万斉が尋ねた。また子の視線はぼんやりと、テレビに向けられたままだ。

「協力してくれなかったら、晋助様を宇宙に連れて行くって言われたッスよ」

面白くなさそうに、テーブルに肘をついたまた子が答えた。

「そのかわり、あたしが協力したら、明日帰るって」

万斉は苦笑いを浮かべながら、口をとがらせたまた子を見た。

「坂本が本当にその気なら、晋助はとっくに連れて行かれているでござるよ」

素直に坂本の言葉を信じて手を貸し、見送るしかできずにいたまた子がカワイイと思う。自分なら絶対に、そんな坂本の狂言には騙されないだろうから。
なぜなら、きっと自分と奴は同類なのだと、似ているのだと、万斉は思う時がある。

「じゃああたしは騙されたッスか?」
「騙されたわけではないと思うでござるよ。もしかしたら、本気だったかもしれぬし」

自分が坂本に手を貸したのは、また別の理由からだ。
大晦日定番の歌番組が始まった。寺門通が出るこの番組への出演を蹴ってまで、今自分がここにいる理由。

「また子…。拙者と、初詣に行かんか?」




2人で初詣に行ったのか行ってないのかは、御自由に。
しかし辰馬(も万斉も)黒いですね(苦笑)ハメられてるまた子!
実はこの3部作は坂高←また←万でした。んでもって、実はまた子誕生日に続きます
























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