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「ちょっとちょっと高杉ィ〜」
相変わらず間延びした、やる気のない声に呼び止められた放課後。

夏の日の贈り物


「っんだよ?ウッセェなァ」

掃除をサボろうとしていたのがバレたのかって、一瞬思ったけど、どうやら担任の銀八が俺を呼び止めたのは別の理由だったらしい。

「お前さ、進路希望、真面目に書いてくんない?」

出席簿の間に挟んで、いつ俺を捕まえてもいいように用意していたらしい銀八が取り出した俺の進路希望表。

「俺は真面目に書いただろ」
「お前ねェ…」

第1希望しか書かれていない俺の進路希望。それは。

『坂本先生に永久就職』

「お前がそんな態度だったらさァ」

銀八は、まだ半分以上が残っている教室の中で、周りに気を遣ったのか小声になった。

「辰馬に言い付けるからねェ」
「…言えばいーだろ?」

だって。俺の18の誕生日にプロポーズしたのはアイツなんだからさ。

***

あれは8月。当然、真っ当に授業なんか出ていない俺のために、学校では連日補習が行われていた。
俺達生徒は夏休みでも、教師はそれなりに学校に出勤しなきゃならなくて。
だから、補習でもなんでもいいから学校に来るために俺が普段サボっていたなんて知ったら、普通のヤツは驚くだろうなァ。
だって、せっかく夏休みでも、全然辰馬と一緒にいれないなんて、そんなの寂しすぎる。

だけどもちろん、それだけじゃなくて、朝起きれなかったり、本当に面倒臭くてサボったりってのも結構あったから、どっちみち補習は免れなかったとは思うけど。
8月10日。この日も、もちろん教室で補習が行われていて。お昼を過ぎて武市先生の古文が終わって、俺は1人で教室に残っていた。
俺が教室にいるってことを、もちろん辰馬は知っていて。武市先生が帰って行ってから、5分も経たないうちに辰馬が教室にやってくる。

「高杉、お疲れ様」

俺の前の席に後ろ向きに座った辰馬が持って来た冷たいペットボトルのお茶で喉を潤した。補習で他に誰もいないってのに、それでも辰馬は、学校では俺を下の名前では呼ばないんだ。

「高杉の補習がなかったら、わし早めにお盆休み取ったのに」
「うるせー」

俺が、朝起きれない理由の、半分くらいはお前のせいじゃねェか!

お前が、毎晩毎晩、あんなに激しくスルから、起きれねェんじゃねェかっ!体力が有り余ってる上に絶倫のお前と一緒にするんじゃねェよ!
俺がお茶を飲みながらふて腐れていたら。辰馬が急に真剣な顔で俺を見つめてきて。

「晋」

学校では絶対言わないはずの名前で辰馬が俺を呼ぶ。なんだか、普段過ごしている教室の、こういう場所で名前で呼ばれるって。ただそれだけなのに、なんだかドキドキする。

「18歳、おめでとう」
「あ、ありがと」

夜中日付が変わる瞬間は、疲れた俺は眠ってしまっていたからな。なんだかこうやって言われると、恥ずかしいやら照れ臭いやら嬉しいやら。

「あんな、高杉」

ああ、名前で呼んでくれたのはたった1回だけかとか、また苗字に戻っちまったとか、やっぱ学校なんだよなとか思ったんだけど。

「卒業したら、嫁に来ィ」
(……は?)

辰馬が言っている意味が、一瞬理解できなかった。

「わしと、結婚しよ」

高杉の誕生日にプロポーズしたかったんじゃ、と。少し頬を赤く染めた辰馬がガシガシ髪の毛が跳ね放題の頭を掻いている。

「あー、本当は、この後ご飯でも食べに行ってから言うつもりじゃったんじゃア」

我慢できずに言ってしもうたぜよって照れてる辰馬の顔は、もう、教師のソレじゃなかった。

「辰馬、…サンキュ」
「じゃあ、晋…」

おいおいお前、俺が嫌だなんて言うとでも思ったのかよ?なんでそんな不安そうに、泣きそうになってんだよ?

「お前んとこに、永久就職してやるよ」

ぶっちゃけ、お前からのプロポーズ、何よりも一番嬉しい誕生日プレゼントだぜ?
本当は嬉しすぎてどうにかなりそうだったけど。辰馬が俺より泣きそうになってたから我慢して、少しだけ強がってみせた。
俺の18歳の誕生日。たぶん一生忘れらんない。


END



なぜか教室でプロポーズさせたかった






















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